監督:イ=ジュニク
出演:朴烈(イ=ジェフン)、金子文子(チェ=ヒソ)、水野錬太郎(キム=インウ)、布施辰治(山野内扶)、立松懐清(キム=ジュンハン)、牧野菊之助(キム=スジン)、ほか
見たところ:桜坂劇場
韓国、2017年
自らを不逞鮮人と名乗り、関東大震災後の朝鮮人大量虐殺のスケープゴートとして逮捕された無政府主義者の朴烈と、その愛人の金子文子を2人の出会いから大逆罪で裁かれるまでを描いた歴史物です。
ただ上海で活動していた義烈団(「
密偵」の)から爆弾を入手しようとしましたが果たせず、大逆罪を負わされて死刑の判決も受けました(後に天皇の名において恩赦を与えられ、無期懲役に減刑)が、本当にヒロヒト(当時は皇太子)を暗殺しようとした難波大助と違って、幸徳秋水らの大逆事件と同じく、実態はありません。
最初に書いたように関東大震災で混乱する民衆を沈めるべく、朝鮮人の井戸への毒混入とか騒乱をでっち上げて、自警団や軍隊に大勢殺させたことで、わずか4年前に朝鮮半島全土で起こった三・一独立運動の再来を恐れた日本政府が、そのごまかしとして再度でっち上げた事件です。1つ嘘をついたら、その嘘を隠すために2つでも3つでも嘘をつかなければならない日本の姿は、えらく醜いですな。
ちなみに朝鮮人虐殺を水野錬太郎が主導したように描かれてますが、なんというかな、日本の政治家の良心とか、わし、これっぽっちも信用しとらんので山本権兵衛とか白々しかったですわ。
もっとも朴烈はこれを逆手にとり、文子とともに自らの主張(天皇制の廃止や朝鮮の独立など)を展開しますが、真実の姿はマスコミには伝えられず、1945年にようやく釈放となったのでした。日本共産党の徳田球一が「獄中十八年」とか書いてたけど、それより長いですネ。
しかし、映画では日本敗戦後の朴の経歴をごまかしてまして、1974年に朝鮮民主主義人民共和国で刑死した事実は伏せているのはどうかと思いました。1989年(だったか)に大韓民国から勲章を受けたことまでは紹介してましたが、当人、その時点では死んでるはずなんで。
ただ、そういう朴烈の経歴もけっこう歪んでるWikiでの紹介なもんで、転向に次ぐ転向とか、共和国でスパイの疑いをかけられて処刑されたとか、どこまで真実なのかは疑わしいところではありますが。
そういう意味では原題は「朴烈」でしたけど、邦題で「金子文子」をつけ加えたのは日本向けなんでしょうけど、圧倒的に金子文子のが魅力的でした。それはたぶんに、わしが文子が恩赦を受けた後で自殺してしまったことを知っているのも影響しているとは思います。ありもしない大逆をでっち上げられて、その思惑に乗って、最後までその意志を貫いた、天皇の恩赦を良しとしなかったという点では朴烈は金子文子の足下にも及ばないわけなので。まぁ、たきがは的には生き残る朴烈は大いにありなんですけど、李承晩とかの名前が出てくるとちょっと疑わしくなるもんですから。
朴烈の記念館があったそうで、金子文子の墓もあるようなんですけど行きそびれたぁ…
疑わしいと言えば、新山初代がスパイっぽく描かれていたのはどうなのだろう? そこの描写、必要か?
あと、「
バトル・オーシャン〜海上決戦」でも思ったんですけど、日本人の役を日本人が演じてないのはどうも台詞廻しが不自然になる時がありますね、残念ながら。まぁ、役柄が役柄だけになかなか出演を承諾する俳優もいないんでしょうけど、そこら辺は日本人のけつの穴の狭さが嘆かわしいところですが。そもそも打診したのかとか。
個人的にはこの監督の経歴ぐらいで巨匠とか言って持ち上げちゃうのはどうかと思いました。別に嫌いな監督ではないんですが、巨匠じゃないだろう…
わし的にはすごく関心のあるジャンルなんで多大な期待を持って見ましたが、凡作とは言えないまでも傑作とも言いがたい、微妙な映画でした。
それは2人が実際には何の罪も犯していないという理由もあったのかもしれません。大逆という、日本では最大の罪をでっち上げられたという意識が最初から最後まで消えなかったせいかもしれないです。その意識はあったにもかかわらず、彼らは爆弾1つ投げたわけじゃなかった。ただ、時代と事情が彼らを大逆事件に押し上げただけに過ぎなかった。それは実際にヒロヒトに銃弾を向けた難波大助には及ぶべくもなかったのではないかと、そんな風に思いました。
だって夢想するだけならば誰にでもできるのですよ。
ただ法廷で演じた不逞鮮人の姿は誰にでも真似できるものじゃないんですけど。
たんぽこ通信 映画五十音リスト
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