監督:ジム=ローチ
原作:マーガレット=ハンフリーズ
出演:マーガレット=ハンフリーズ(エミリー=ワトソン)、レン(デビッド=ウェナム)、ジャック(ヒューゴ=ウィービング)、マーヴ()、ほか
見たところ:川崎アートセンター アルテリオ・シネマ
2010年、イギリス
ケン=ローチ監督の息子さん、ジム=ローチ監督の初監督作品です。初っぱなからイギリス史最大のタブーに挑むとは、なかなか将来が楽しみな監督ですね! (・∀・) 同じ題材をお父さんが撮ったら、また別の映画になったんだろうなぁと思いますが、事実を見つめる厳しさと、被害者たちに向けられる優しさは、お父さんの姿勢と共通してる感じです。さすが! (・∀・)
公開中の映画につき、一応、続きにしまっておきますよ。
社会福祉士として働くマーガレットは、シャーロットと名乗る女性に「子どもだけオーストラリアに渡った。私の母はどこにいるのか調べてほしい」と言われ、最初は信用しなかったが、自らの主催する孤児たちのサポートする会でニッキーという女性から同じような境遇の弟ジャックの話を聞かされ、このことを調べ始める。だがそれは、イギリス政府、オーストラリア政府、慈善団体やキリスト教団体まで関わった国家的なもので、1970年代までのべ13万人の子どもたちが孤児としてイギリスからオーストラリアに移民させられたという事態だった。オーストラリアに渡ったマーガレットは、孤児たちに会い、その実情を聞いて、1人ひとりに家族を見つけ出し、自分が何者か教えるのだった…。
19世紀から1970年代(映画の舞台は1986年のノッティンガムから)まで実際に行われていた子どもだけの移民を追った、マーガレット=ハンフリーズさんのドキュメンタリーを描いたものです。
子どもだけの移民というからには孤児や貧乏人の子どもが大半なのだろうと思うかもしれませんがさにあらず(作中でも関わったキリスト教団体の人がそんな中傷を言ってますが)、40年も経った今、お母さんが生きてるのに「両親は死んだ」と言われて連れていかれた子どもが大半でして、その扱いも劣悪なものでした。なにしろ10年間でもらった服が1着と靴が1足というだけで、そのひどさがわかろうというものですが、それに加えて、立派な石造りの教会も3〜8歳ぐらいの子どもたちが炎天下、石を運ばされ、建てさせられたというのですから、とんでもない話です。しかも、ビンドゥーン修道院というところでは少年たちへのレイプまで日常的に発生しており、何人もの人びとがその体験を涙ながらに語る(いい歳したおっさんが!)シーンではもらい泣きの涙が止まりませんでした。
それに終盤、オーストラリアに行ったマーガレットの家族が、孤児たちと一緒にクリスマス・パーティをしていた際、息子が「君は何をくれるの?」と言われて、「ママをあげたよ」と言った、小さい子ながら、母親の仕事を認め、寂しさを我慢しているんだなぁというシーンも良かったよ! ・゚・(つД`)・゚・
主演のエミリー=ワトソンさんはスピルバーグの最新作「戦火の馬」にも出演されていたとか。見ないけどな!
レンはビンドゥーン出身の孤児の一人で、最初はマーガレットに疑いを抱き、疑念的な態度をとり続けますが、母を捜し当て、レンの差し出した小切手よりもレンの信頼を選んだ彼女に、最終的には「あんたは最高のプレゼントだ」と言うまでに強い信頼を抱くようになります。演ずるデビッド=ウェナム(デイビッド=ウェンハム)さんは「
ダスト」や「
ロード・オブ・ザ・リング」にも出演されてるオーストラリアの俳優ですよ!
そして例によってたきがはの感想は日本へ向かうわけですが、日本は今のところ、子どもだけの移民などということはせず、ブラジルにしても満州にしても家族単位でした。でも、ひどい環境だったということや、特に満州の場合は敗戦で命からがら逃げてきた人も多かったし、特に子どもの死亡率は高かったし、残留孤児などという悲劇を生み出しています。そして、移民ではありませんが、棄民と言えるような策ならば、東北などの飢饉による娘の身売りは相当な数に上ったはずですし、これは国策でした。身売りさせられ、人間以下に貶められた女性たちのことは「親なるもの断崖」などでも読めますし、東南アジアに渡った「からゆきさん」などの話もあります。そう考えると、そうした策をとってきた日本という国(戦前と戦後で国体の違いなどはあるかもしれませんが、その中身を支える官僚組織はそっくりそのままというのが現在の日本の悲劇の大半の原因ではないかと思える)が、被害者に謝罪さえしていないことは、最後の移民が終わってから23年後に謝罪したというイギリス・オーストラリア両政府に比べて、とてもましだとは言えたものではありません。なにしろ戦前の日本では家父長の権力がとても強く、娘の身売りも所謂「自己責任」みたいなところがあったので、国の政策が間違っていたなんて口が裂けても認めはしないでしょうし。でも、そうして歴史の暗部に埋もれてしまった人びとのように、今また隠蔽され、埋もれようとしている福島や沖縄を思うと、日本は今度こそ変わらなければならない、そのために何をしたらいいのだろうと思わずにいられないのでした。
タイトルの「オレンジと太陽」は、孤児(という言い方は間違っているのですが)たちを騙くらかしてオーストラリア行きの船に乗せた奴が言った言葉、
「君のママは死んだんだ。
だから海の向こうの美しい国へ行くんだよ。
そこでは毎日、太陽が輝き、
そして毎朝、オレンジをもいで食べるんだ」
によると思われます。
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