エリ=ヴィーゼル著。村上光彦訳。晶文社刊。
死と死者にまつわる13の短編を収めたエッセイ集。
やはり気になるのは視界から完全に外れた東アジアで日本軍がなした虐殺のことでしょうか。
アウシュヴィッツの次にヒロシマを持ってきて疑問に思うことも恥じることもないヴィーゼルの姿勢はやはり看過できません。
誰かが言ってくれるだろうと甘えていないで加害者である日本人こそが指摘し続けなければならないことではありますが、ノーベル平和賞なんて言われてもしょせんはこの程度なんだなと思わざるを得ません。もっともヴィーゼル自身がレイシストで、アジア人を蔑視していたというのなら話はまた別でしょうが。
また、ナチスが敗戦直前まで強制収容所でユダヤ人ほかを殺戮し続けていたのは、連合軍の指導者たちが事実を知っていながら、殺戮を止めようとしなかったのはよく言われることですが、ヴィーゼルも再三指摘します。さらに加えてナチスの勢力圏外にいたアメリカやパレスチナのユダヤ人たちも、知識人たちも何もしなかったと言います。何があったのかわかっていて、それを止めさせようとしなかったくせに、全てが露見したら、大げさに騒ぎ立て、同情してみせる、それらの人びとの偽善性を追求するヴィーゼル。
その答えが
あなたがたが知りたいのは、理解したいのは、きりがついたとしてページを繰るためではないのか。こう思うことができるためではないのか。−−−事件は完結し、すべてが秩序に復した、と。死者たちがあなたがたを救援しに来るなどとは、期待しないでいただきたい。彼らの沈黙は彼らのあとまで生きのびるであろう。だったんだろうと思います。
あと、ドイツ人のやり方を「反ユダヤ政策を展開するにあたっても一歩また一歩と徐々に進んで、ある措置を講じるごとに、ある打撃を加えるごとに、反応を見るためにあとで息つぎをするのであった」と言ってますが、推しも押されぬドイツの同盟国であり、最後まで連合国と戦った日本軍の中国でのやり方はどうだったろうかなぁと気になるところです。
もっとも日本の場合は南京大虐殺にも匹敵する悪行731部隊をアメリカの意向でチャラにしてるので、わしが思ってる以上に世界というか、ほぼ欧米になりますけど、日本の罪業は知らないんだろうなぁと思いました。三光作戦とか、従軍慰安婦にしても強制徴用にしても。あるいは知っていても植民地のことだから、一緒に中国を食い荒らした仲だしという共犯意識を抱いているのか、どれかだろうと。
わりとよくやり玉に挙げますが、日本のホロコースト関係者が、まるで日本とドイツが同盟国じゃなかったかのようにドイツの悪辣さを上げるのに、その地続きのところに日本がいるという自覚がない件は、こちらの訳者の方には当てはまりませんでした。まぁ、それぐらい知っておけよ、カマトトぶんなよ、知らないことを恥と思えよと思ってるので当然ちゃ当然ですけど。
ただ、わしの好きなマンガ「南京路に花吹雪」シリーズの主人公・本郷義昭さんが山中峯太郎の「亜細亜の曙」シリーズからとったのは著者の森川久美さんが仰ってたことなんですけど、その小説が反ユダヤ主義に充ち満ちていたという記述は読もうと思ったこともありませんけどがっかりでした。たしか黄子満の名前もそれから取ってたはず… (´・ω・`)
全然、ヴィーゼルの感想になってませんが、ホロコースト物は今度こそ、もういいだろうということで。
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