辺見庸原作。石坂啓、柳澤一明、佐藤智一、関谷巌、角山圭、堀口純男、佐藤久文画。集英社刊。
辺見庸さんのドキュメンタリー「もの食う人びと」の漫画化です。実は未読のままなので、次に借りてみよう。
カバーが石坂啓さんで微笑む女性のワンポイントですが、この絵は本編を読むと彼女が歩まされた壮絶な人生とともに胸に迫るものがあります。そういう意味ではこの女性の登場までが長い気がしましたが、別に長編ではなくて11の短編集です。
それぞれ、別の国が舞台で、食に乗せて描く、それぞれの国の現代の事情や歴史だったりします。
それらの国はバングラデシュ、フィリピン(ただし話は旧日本軍)、ドイツ、ロシア、ウガンダ、ベトナム、ウクライナ、ソマリア、クロアチア、ロシア、韓国と多岐に亘っており、辺見庸さんの関心の多さをうかがわせます。
切り口はバングラデシュ、フィリピン、ロシア、ウガンダ、ベトナム、ウクライナ、ロシア、韓国が日本人のジャーナリストだったりカメラマンを主役に舞台となっている国を旅をさせ、現地の人たちとともに食事をすることでその国の事情や歴史を知るパターンと、ドイツ、ソマリアがそういう傍観者は登場せず、現地の人たち自身を主役に紹介するようなパターンとに分かれてました。そこら辺は世界の辺境を舞台に日本からのはみ出し者たちが語り部となって物語を進める故・船戸与一さんの手法に似た感じがします。クロアチアはどちらかというと前者のパターンですが、主役は日本人ではなくて国連の平和維持軍の名前からしたらアメリカ人ぽいです。
フィリピンを舞台にした話が旧日本軍の食人を扱っているように韓国は従軍慰安婦だった女性の話で、わし個人の関心からいったら、やはりこの話がいちばん良かったです。まぁ、女性に理解のない若い日本人という切り口はそろそろうんざりしてきましたが、掲載誌がヤングジャンプだったので、よく載せたなと思うとともに読者にいちばん近いという点ではしょうがないのだろうなと。
ただ、ドイツのネオナチと移民、ロシアの北方領土、ウガンダのエイズ、ベトナムのフォー、ウクライナとチェルノブイリ原発(もちろん事故も)、ソマリアの内戦、クロアチアのユーゴ内戦、ロシアの貧困と、テーマは北方領土とベトナム以外はどれも重く、やっぱり原作も読んでみないとな~と思いました。
個人的にはウクライナは本橋成一さんの傑作ドキュメンタリー映画「ナージャの村」シリーズがあるので付け足し感が否めませんが。
ベトナムはベトナム戦争があったという点では負けず劣らずの重さなんですけど、戦争が今でもベトナムの人びとに落とす影という側面はありつつも、ハノイとホーチミンを結ぶ長距離列車に無賃乗車をしてサトウキビを売って、夢だったフォーの店を開くチャンというベトナム人の若者の姿とかが例外的に清々しかったです。
あと、北方領土は、わしは別に「北方領土返還」とか叫ぶ気はない人なので(大元を言ったら、日本の領土ではなくアイヌの領土だから)そこにゴボウを捜しに行った自称カメラマンの話は軽かったですね。さらにゴボウを捕虜に食わせて処刑になった日本軍人の話は眉唾らしいので載せない方が良かったと思いました。
それ以外はおおむね良作。
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