坂口尚著。講談社漫画文庫刊。全5巻。
第2次世界大戦でドイツの侵攻を受けたユーゴスラビアを舞台に描いた長編漫画です。見るたびに読み返したくなるんだよね〜。
物語は主に、パルチザンに身を投じることになる少年クリロと、その友人、少女フィーを中心に描かれますが、そこにクリロの兄イヴァン(実は従兄で、しかもドイツ人とのハーフだったことが判明)、イヴァンの恋人ミルカ、イヴァンの仲間で第1次世界大戦にも参戦したという歴戦の兵士ブランコ、戦後、ユーゴスラビア共和国の初代大統領となった共産党の指導者チトー、クリロと知り合ったチンピラ・ミント、その愛人ネダ、フィーに亡き妹の面影を見出すナチスの将校マイスナー、その部下のオットー伍長、ドイツ人のスパイとなったイヴァンの同僚であるエルケ、とまぁ、多種多様な、多民族国家であるユーゴスラビアの、それぞれの民族の代表のような感じで多彩な登場人物が入れ替わり立ち替わり現れ、消え、また再登場し、と1941年〜1943年の激動の時代を生き抜いていきます。
わしは初めて読んだ時からブランコがいちばん好きだったりするんですが、クリロたちには先輩で、一見、何にも動じず、常に冷静な判断で劣勢な戦局を乗り切っていくように見えるブランコが作中でいちばん格好いいと思いました。「
麦の穂を揺らす風」でもダンが印象的と書いているので、わしの好みは英雄よりも縁の下の力持ちのようですわい。
でまとめてプレビューではなくて1巻ずつ書きます。全5巻というのはやたらに長引く長編漫画が多い昨今では決して長い方ではないのですが、この漫画にはたかが5巻とは言えない力があるからです。だから好きなんですが、そういえば、著者の他の作品は読んだことがないので機会があったら読んでみようと思います。1997年に亡くなられた作家さんなのでなかなか古本屋でも目にする機会がないのですが…。
1巻は「侵攻編」とサブタイトルがついていて、クリロたちの故国ユーゴスラビアにナチス・ドイツを初めとする枢軸国が攻め込み、クリロとフィーが戦争に巻き込まれていく様を描きます。
ミント、ブランコ、イヴァン、ミルカ、メル(フィーの収容所での友人)、マイスナー大佐、オットー伍長、エルケ、フィーの叔父といったメインの人物はほぼ第1巻で登場してます。
クリロはパルチザンになり、イヴァンとの縁もあってブランコの指揮下に入りますが、フィーを見かけたことで町に入り、ミントとともに共産党に加わったりしてます。この共産党というのがくせ者で、親玉のソ連がドイツと不可侵条約を結んだというのでなかなか蜂起しません。そもそもユーゴスラビアは王国だったので、1巻のうちは王党派の方が優勢だったりしますが、ブランコはそのどちらでもなく、ただ故国を救うために立ち上がるような人物なところがわしの好みだったりします。まぁ、後に武装の貧弱さなどもあって、共産党軍に加わっていくんですが。
そして1巻しか登場しませんがクリロとフィーの臨時の担任となったフンベルバルディンクという先生が最後までクリロとフィーに精神的に影響を与え、その教えが支えとなっていくというのが印象的です。
タイトルである「石の花」はポストイナの鍾乳洞にある石柱で、これもまた謎かけというか、もはや哲学っぽくて、そういうところもこの漫画がほかに多くある戦争物と一線を画しているところのような気もする…。
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