デイヴィッド=ハルバースタム著。山田耕介・山田侑平訳。文藝春秋刊。全2巻。
朝鮮戦争そのものを描くより、アメリカはどうして朝鮮戦争の悲劇を避けられなかったのか、に重点が置かれたドキュメンタリーの下巻です。
が、正直言って、まぁ、アメリカ人の抱く朝鮮感から一歩も出ていなくて、著者の最高傑作とか訳者なんか絶賛(自分が訳したんだから自画自賛?)してますけど、ブルース=カミングスさんの著書に比べると凡百の印象はぬぐえません。だいたい主題の立て方からして間違ってます。
アメリカが中国との泥沼の戦争に踏み込んだのは中国の参戦を考えていなかった独善的なマッカーサーのせいなんかではなくて、そもそも日本の植民地だった朝鮮が、その前は2000年以上の歴史を持つ独立国であったという事実を無視して朝鮮人を格下と見なし、自主的に独立国家を作れないと考え、勝手にソ連との分割統治をしたせいです。全土に起こっていた朝鮮人民共和国への下地とか、親日派(売国奴と同義)を自主的に裁こうとしていたとか、そういう動きを無視したのは独善的なアメリカです。
だから本来ならば日本に協力的だったとして裁かれていたはずの親日派の白善燁なんぞを「朝鮮最高の軍人」とか絶賛するんです。
だいたい、それまで白善燁の名前も功績も出てこない上、韓国軍がさんざんアメリカ軍の役に立たない、士気も低い、だらしない軍だとこき下ろしておきながら、白善燁だけ偉大なわけがないじゃないですか。
一方で毛沢東、金日成、スターリンはこき下ろしてますけど、これって、従来のアメリカ史観とどう違うんですかね? まぁ、いかにも文藝春秋が好みそうな著者だと思いましたけど。
あと、朝鮮戦争の描写が、アメリカ軍が中国軍に反撃し、以後、両軍が38度線を境に小競り合いを繰り返すことにもなった砥平里(チピョンニ)の戦いでほとんど終わっちゃって、マッカーサーの解任がクライマックスというのは、最初からこの著者、マッカーサーについて描きたかったんじゃね?と思うくらい、マッカーサーの比率(その生い立ちから性格の形成など)が高かったのも、わし的にポイント低いです。嫌と言うほどマッカーサーとその取り巻きについて読んだんで、マッカーサーはもう見とうない。
インタビューの範囲もアメリカに限られているようですし、そういう視点で立てば、韓国は偉大な復興を遂げたわけだし、共和国は独裁主義の世界中の嫌われ者なわけですけど、まさか、共和国が世界で孤立しているとか本気で思ってないよね?!と突っ込みたいです。
さらに言えば、「俺たちがいなければ朝鮮半島は共産化していた」的な時代遅れの陰謀論も願い下げにしたいです。
さんざんマッカーサーやその取り巻き、アメリカの持つアジア人を蔑視する人種差別を描いていますが、著者自身が、あんまりそこから抜けてないという自覚を持っていなかったように感じました。
著者がメジャーになったのはベトナム戦争で、やっぱり泥沼化していったアメリカを描いたドキュメンタリー「ベスト&ブライテスト(原題そのまんまの邦題というだささにも突っ込みを入れたいところですが…)」だそうですが、たぶん読まないだろうなぁ…。
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