山本周五郎著。新潮文庫刊。
山本周五郎氏唯一の推理物です。
罪を憎んで人を憎まず、寝ぼけ署長のあだ名をとる五道三省(ごどう さんしょう)の携わった10の難事件を、その秘書の語りで綴る人情味溢れる推理物。「中央銀行三十万円紛失事件」「海南氏恐喝事件」「一粒の真珠」「新生座事件」「眼の中の砂」「夜毎十二時」「毛骨屋親分」「十目十指」「我が歌終る」「最後の挨拶」の10の短編集です。
しかし推理物といってもそこは山本周五郎、犯人探して逮捕で終わりではありませんし、そもそも犯人が明示されない話も少なくありません。また事件なんて起こってない話さえあって一筋縄ではいきません。
風貌は冴えない寝ぼけ署長ですが、頭脳は明晰、肝心な時には動作も俊敏なできる人物です。また弱きを助け強きをくじくを地でいく優しさを貧しい人びとに寄せ、転任が決まった時には市をあげての留任を求める騒動が起こったくらいです。
なかなかの快作といっていいでしょう。
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