山本周五郎著。新潮文庫刊。
娯楽一辺倒のエンタテイメント活劇。
時は元禄、田沼氏が失脚して間もない頃、吉岡万三郎は長崎から江戸に呼び戻され、兄たちを手伝うことになる。紀州徳川家が外国から武器を密輸して幕府の転覆を狙っているというのだ。前代未聞の大陰謀に兄弟の奮闘が始まる…。
という筋立てなんですが、事件解明第一の兄二人、花田徹之助と甲野休之助、そして主人公・万三郎の三人のキャラクターが大変よく、周五郎作品では異例の低評価の本作ですが、わしは肩の凝らない娯楽小説としてとっても楽しかったです。
なんといっても万三郎の末っ子というキャラクターが、今まで読んだ末っ子のキャラクターを彷彿とさせてユーモアに溢れ、それでいて自身を慕う二人の女性に翻弄される優柔不断さというか優しさとか、敵ながら好敵手と認めた相手に無条件で払う敬意とか、自分はけっこうな使い手でありながら暴力を嫌うところとか、なにしろ万三郎がいいです。周五郎さんらしい主人公です。
これに対する兄二人も、よくできた長兄・次兄っぷりが万三郎との対比でおもしろく、「型どおり」という批判を読みましたが、周五郎さんらしいいい兄弟でした。
ちなみに兄弟全員で姓が違うのは弟二人が養子に行っているからです。
この三人に加えてダブル・ヒロインのつなとかよの対比、兄弟を助ける仲間たち、そして万三郎を恋敵とする凄腕の剣士・石黒半兵衛など魅力的なキャラクターが盛りだくさん、浮浪児のような半次とちづのしっかりぶりなんかもいい感じでした。
過去に2時間ドラマになったみたいなんですが、こういうの、1年ぐらいかけてじっくりやってくれればいいのになぁと思います。
休之助のイメージはもろ杉本哲太さんです。万三郎は知らないけど和装が似合う若手にやってもらいたいです。
周五郎さんの小説では「
樅ノ木は残った」がダントツに好きですが、先日読んだ「
天地静大」や「
さぶ」に次いで好きな小説になりました。
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