ラウル=ヒルバーグ著。持田幸男・原田一美・井上茂子共訳。柏書房刊。全2巻。
ナチス・ドイツによるユダヤ人の「最終的解決」、いわゆるホロコーストの過程を前史に始まって、ニュルンベルク法などによる定義や財産等の収用、強制収容、移動殺戮作戦、移送、絶滅収容所に至る歴史を丹念に追った大作。
何度も繰り返される問いですが、「なぜ600万人ものユダヤ人がむざむざと殺されたのか」というのは、この書の中ではっきりと結論づけられています。ユダヤ人は動けなかったのだと。助けを求めた時にはもう遅く、連合国もまたユダヤ人を助けることを最優先にはしなかったのです。
けれど、1つの民族の絶滅という歴史上例のない事態は、ある日、突然やってきたものでもありませんでした。事態は徐々に悪化し、当事者たちのいずれ過ぎ去るだろうという予測を裏切り続けて、避けられない悲劇へと陥っていきました。
このような歴史がまたどこかで繰り返される時、著者はもっと速やかに事態は進められるだろうと予測しています。それが日本で起きていないと思えるでしょうか? 少しずつ少しずつ、私たちの首は絞められていないでしょうか?
時々、こういうどっしりと重い著作が読みたくなります。続いてハンナ=アーレント(「イェルサレムのアイヒマン」と時期はそう変わらないのに著者名がハナ=アーレントになってました)の「全体主義の起源」にとりかかる予定。
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