船戸与一著。講談社刊。
ベトナム戦争終結後30周年を記念したドキュメンタリーを撮影するためにホーチミン市にやってきたタレント、知念マリーと創風プロダクションの一行。だが、明日にはホーチミンを発つという晩、マリーが誘拐されてしまった。誰が? 何のために? プロダクションの一行に便宜を図るエージェント、菱沼大介は、ベトナム辺境の地でくすぶる少数民族、通称モンタニャールの闘争に巻き込まれていく。
相変わらずスケールが大きい船戸作品、今回はドイモイに湧くベトナムが舞台。しかもベトナム戦争終結後30周年のドキュメンタリーの撮影ときて、スムーズに進むはずがない。現地エージェント、菱沼大介、元戦場カメラマンの岸田浩司、ベトナムの地方都市バンメトートの治安局に勤めるハイという三人の狂言廻しによる多重な視点は、最初は全然関連のないもののように見えて、マリーの誘拐という事件から徐々にもつれ合うように絡み合っていく。
ただ、モンタニャール闘争委員会を率いる謎の日本人という構図は、実はいままでの船戸作品ではおなじみの存在なことに加え、そこに荷担する若いベトナム人ハルとか、仕事熱心なあまり妻を寝取られるハイとか、船戸作品ではどこかで読んだような人物像であるのも疑いないところ。ラストの空しさも「かくも短き眠り」に通じるものもあり、少々物足りなさも残った。
あと、「DAYS JAPAN」最新号で、今もベトナムに残るダイオキシンの傷痕を見てしまうと、作中で、枯れ葉剤をまかれたというダクブラ河沿いに住んでいるモンタニャール闘争委員会の面々に何の影響もないという描かれ方をしているのも気になった。ダイオキシンの毒素はそんなに簡単に消えないと思いますよ。
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