監督・脚本:黒澤明
音楽:早坂文雄
出演:中島喜一(三船敏郎)、原田(志村喬)、中島一郎(佐田豊)、中島二郎(千秋実)、中島とよ(三好栄子)、中島すえ(青山京子)、ブラジル帰りの老人(東野栄治郎)、ほか
黒澤映画の中でも破格に重たい一本。これだけ娯楽作ではないです。
間違っても、ご飯を食べながら、お気楽極楽な態度で見る映画ではないのですが、もう3回目くらいなんで見てしまいました。もぐもぐ…
たきがは的にはこの映画と、「
白痴」「
七人の侍」「生きる」「我が青春に悔いなし」を併せて、黒澤映画ベスト5です。「生きる」はなんちゅうても志村喬さんの名演と菅井きんさん、「我が青春に悔いなし」は、わしの考える日本人の第1位美女・原節子さんをここまで汚すか黒澤監督な映画です。や、どっちもそのうちにレビュー書くと思います。
鋳工所を経営する中島喜一の家族が家庭裁判所に持ち込んだ申し立てに、調停人として立ち会うことになった歯科医の原田は、その内容が一家の主、中島喜一を準禁治産者として認めてほしいということに驚く。喜一は、水爆や原爆の被害を恐れるあまり、すでに秋田県に地下家屋を建設しようとして失敗しており、今度は一族の安住の地をブラジルに求めて、一家の猛反対を喰らっていたのだ。生きものの本能で放射能の被害を恐れる喜一に、原田は家族の求めるように準禁治産者として認定すべきかどうか悩むが…。
この映画、まずは「
七人の侍」の翌年であります。つまり、働き盛りばりばり30代の三船敏郎さんが主人公の中島喜一を演じております。じじいですが、見るからにじいさんですが、精力あふれるじいさんで、妾は3人、隠し子も3人で、しかも1人は乳飲み子ってんですから、その精気盛んなところは、バイアグラも真っ青って感じです。しかも、一代で工場をなし、おそらく100人近くの社員を働かせている(息子2人もここで働いている)ところから鑑みますに、相当パワフルなじいさんです。そんなじいさんが原水爆への恐怖を感じてしまったから、さぁ、大変。周囲の迷惑鑑みず、まさに本能の赴くままに、まずは秋田へ逃げようとし、そこでは北からの核から逃げられないってんで、地球上で安全な場所として南アメリカを認定、たまたまブラジルから帰ってきたがっている人がいるってんで、ブラジルへ移住しようと猛進し始めます。そして、監督が決してこの老人をただの心配性、杞憂と笑っていない証拠に、作中で原田医師に「死の灰」という本を読ませて、「この本を動物が読んだら、真っ先に日本から逃げ出すだろう」と言わせているのでした。つまり、中島喜一って老人は動物ばりの本能の赴くままに日本から逃げだそうとしているのだと。
しかし、わしもそうですが、たとえ現在、世界を滅ぼすに足りて、なお余るほどの原水爆が世界中にあるとわかっていても、どこかへ逃げようとか、原水爆の心配を日常の中ですることはありません。ラスト、「正気なのはその事実を知っても、平気でいられる我々なのか」ととある医師(「生きる」の助役さんじゃ〜)に語らせているように、監督はその問題を提示してみせたのでした。
黒澤映画の中でもあんまり話題にのぼらない映画なんですが、一度は見てほしい問題作。
たんぽこ通信 映画五十音リスト
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