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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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夕凪の街 桜の国

佐々部清監督。原作こうの史代。田中麗奈、麻生久美子、藤村志保、境正章ほか出演。

広島のある
日本のある
この世界を愛する
すべての人へ

昭和33年、広島。小さな建設会社で働く平野皆実は母と二人暮らし。お金を貯めて水戸の叔母夫婦のところに疎開し、そのまま養子になった旭に会いに行くのが目下の夢だ。けれど、彼女には、いいや、この町の人たちには誰も敢えて触れないことがある。13年前、ピカが落とされたこと、そのために傷を負わされ、肉親や知り合いを殺されたことだ。皆実はその時以来、「死ねばいいと思われるような人間に自分が本当になっとることに気がついてしまうこと」をいちばん怖いと感じ、自分はピカのために亡くなった父や妹の代わりに幸せになってはいけないのだという強迫観念にかられてしまい、同僚の打越から寄せられる思いも拒絶してしまう。皆実がそのことを忘れて幸せになろうとすると、どこからともなく背中で亡くなった妹が自分を呼ぶ声が聞こえるような気がするのだ。おまえの住む世界はそっちではないと言われているような気がするのだ。しかし、打越にそのことを打ち明けた皆実に、彼は「生きとってくれてありがとうな」と温かく抱きしめる。だが、その翌日から皆実は体調を崩し、13年も経って原爆症が発症したことを知る。愛する打越と水戸から会いに来た旭を見守りながら、崩れ落ちる皆実。
時は変わり、平成19年、旭は娘の七波、息子の凪生と3人で暮らしていたが、退職したばかりの父の挙動に不審な点が多いことを七波は心配し、ある夏の日、自転車で出かけた父の後をつける。途中の駅で小学校時代の親友、利根東子に遭った七波は、「遭いたくなかった」とも言えなくて、彼女に促されるまま、電車に乗る父を尾行、さらに東京駅から広島行きの夜行バスにも東子にお金を借りて乗ることになってしまう。東子とは小学校5年生の時に七波が引っ越したために離ればなれになっていたが、その前に弟の凪生を見舞いに行くのにも、お金を借りたことがあったのだった。広島に着いた旭は、七波の知らぬ人たちを訪ね歩き、初めて広島に来たという東子は平和資料館に行くと言って別行動をとる。旭が最後に原爆ドームに近い川のほとりで遭ったのは、いまはすっかり老いた打越であった。そうとは知らぬ七波は祖母フジミや母、京花の死にも思いを寄せる。そして、東子と凪生が同じ病院に勤めていて、二人がつき合っていたのに東子の両親の反対に遭ったことをも知るのだった…。

キャスティングが発表された時にどうかと思いましたが、絶妙でした。特に「姉は今も昔も元気です」と弟に言われる七波、姉二人と父を原爆で失い、母も妻も被爆者、というこの話でいちばん重い部分を背負っていながら、飄々とした好々爺(にはちと早いんだけど)の旭が、素晴らしく良かったです。もうほかの何かを演じていたとか、バラエティがどうとか気にならんくらいでした。たきがはは顔を知らなかったのですが、皆実、打越、若いころの旭、凪生もGJ! フジミ役の藤村志保さんも、さすがベテラン、芸達者、フジミって目立たないんですよ、原作でも。被爆後、2週間、目が開かなかったので「あの惨劇を見ていない」という設定なもんで、「夕凪の街」でも、どうしても惨劇を知っていて、幸せになれなくて、でもやっと幸せになろうとした矢先に命を奪われてしまう皆実の方に目が行ってしまいますし、「桜の国」でも原作は1があります(七波の子ども時代。東子はこの時にも出る)ので、そちらではすでに母を失った七波たちの母親代わりとして重鎮な役なんですけど、出番は多くないし、「桜の国2」(映画はこっちが主)ではすでに亡くなってますが、ピンポイントで七波の心に深い傷を残しているシーンがあるんすよね。そこらへんがやっぱうまいなぁ。もう、あれだけの台詞なのに、すげぇ怖かったもんなぁ。実の孫に「あんた、誰ね? 翠の同級生? 翠はまだ帰ってこんのよ。あんた、どこにいたの? どうして助かったの?」って言うんですから。翠は皆実の妹で、どうやら皆実はその死の様を母に打ち明けてないっぽい。原作だと実は皆実には姉がいまして、その姉が皆実より先に原爆症で亡くなって「長生きしぃね」と言う。で翠は行方不明になってます。だから家族は誰もその死に様を知らない。ピカで最後まで生き延びた母のフジミにとって、娘の死がどれだけ深い傷痕を残したのか、死の間際になるまで誰も気づかない、というすご〜く深いシーンなんですな。映画だとこれが妹になってて、その死を観客と皆実は知ってるんで、そこだけ、原作好きのたきがはとしてはフジミの台詞がずれてるような気がして、残念でした。そこはフジミが意図せずして、七波を傷つけてしまったシーンでもあるわけですから。
しかし、それ以外は素晴らしかったです。わしゃ、何度も泣きました。打越に自分の思いを打ち明ける皆実、優しく受け止める打越、皆実の死、50年後に再会する旭と打越、もういくつものシーンで泣けました。勢いでサントラとパンフも買うてきましたが、サントラ聞いてるだけで昨日の感動がひしひしと甦ってきてまた泣けます。
原作ですと、皆実は旭が会いに来た時にはもう起き上がることもできず、目も見えません。打越が会いに来たことも知らず「夕凪が終わったんかねぇ」とつぶやくシーンで終わっておりますが、映画では皆実と旭を会わせてくれ、そこに打越もやってきました。ああ、そうです。皆実がかなえられなかった夢、旭に会いに水戸に行くという夢を映画の中では旭が会いに来てくれることでかなえてくれるのですよ。
そして「桜の国2」には旭の回想シーン、といいますか、京花とのなれそめが綴られていくんですが、ここに七波がいるのは良かったね。ラスト、たきがはのいちばんつぼな「このふたりを選んで生まれてこようと決めたのだ」と七波が、結婚して東京に移り、七波の立っているその橋の上で同じように見下ろしている両親を見ながら言う台詞に、見事につながっとりました。もう泣けた。ぼろぼろに泣いた。映画館でほかに人がいたから頑張ったけど、一人で見てたら声をあげてるぐらいに泣いた。原作を初めて読んだ時もここがつぼで、いつもここで泣ける。それぐらい大事な、この物語をまとめるクライマックスなんですけど、ここの台詞が外されたらすべてがぱあ。全部だめ。いままでの感動台無し。そんな心配も吹っ飛んだですね。最初、見てて「なんでここに七波がおんねん」とか思ってたんですけど、もうあの台詞をああ聞かせてくれたから文句なし。すごいよ!

ぜひ原作ともども見て欲しい。そして忘れないでほしい。あの時代、あの戦争を。広島の被害者、10数万人が、ただの数字ではなくて、わしらと同じ人たちであったこと、一人ひとりの顔があることを知ってほしいと思う。

ところで打越役の吉沢悠氏、「青の時代」に出てたんですって〜?! たきがは、あのドラマ、好きなんだけど。全部見てたんだけど。いったい何の役だったのか知りたい。さらにさらに若いころの旭役の伊崎充則氏、「夢」と「八月の狂詩曲」に出てたそうな。全然気づかなかったけど、子役かなぁ。気になりますです。

たんぽこ通信 映画五十音リスト

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