監督:黒澤明
出演:島田勘兵衛(志村喬)、菊千代(三船敏郎)、片山五郎兵衛(稲葉義男)、七郎次(加東大介)、久蔵(宮口精二)、林田平八(千秋実)、岡本勝四郎(木村功)、利吉(土屋嘉男)、万造(藤原釜足)、与平(左ト全)、茂助(小杉義男)、志乃(津島恵子)、利吉の妻(島崎雪子)、じさま(高堂国典)久右エ門の婆様(声:三好栄子)、人足たち(多々良純、堺左千夫、関猛)、強盗(東野英次郎)、ほか
音楽:早坂文雄
日本、1954年
見た回数がそろそろ両手の指では足りなくなってきた大好き映画です。次点「風と共に去りぬ」「シュリ」。
デジタルリマスター版というだけあって画面がきれいでしたが、わしにとってはおまけみたいなものなので、3時間半、どっぷりと浸って楽しんできました。
今回は最初に侍を探しに行く4人の百姓たちのうち、4人目の茂助(という名前は作中で出ていなかったように思いますが)と、「七人の侍」初心者がたいてい躓く(と断言する)五郎兵衛の活躍に注目してきました。
茂助は野伏退治に急進的な利吉と消極的な万造のあいだを取り持つ役です。もう1人、与平もいるのですが、気弱で何かというと失敗ばかりでべそをかいたり(米を盗まれたシーンとか)笑ってごまかす(菊千代と組まされた後に多し)ことの多い与平では、何かと対立することの多い利吉と万造の仲には割って入れません。
また勘兵衛を無事にスカウトできて、村に報告するために万造と一緒に帰るのも茂助ですが、この後、侍が村に来るというので娘の心配ばかりしている万造が志乃の髪を切り、男装させてしまい、却って村に騒動を巻き起こした時も万造を諫めたのも茂助でした。
つまり、村人のなかでもじさまは別格として、わりとリーダー格なキャラです。と思って見ていたら、初っぱな、野伏たちが襲ってくると知って、村人が集まって嘆くシーンでも、やっぱり野伏と戦おうと主張する急進的な利吉に対して「言われるままに麦を渡そう」と主張するのもやっぱり万造だったりして、これに対して「じさまに相談しよう」と言ったのは茂助だったような気がします。
しかし、そんな茂助に訪れる転機は、実は家が川の向こう側にあるということでした。つまり、村にやってきて村の要塞化を進める勘兵衛により、川向こうの家は見捨てられるわけなのです。そうと知らされて、いの一番に「自分の家は自分で守る」と言って竹槍を捨てるのも茂助。
もっとも、この時は勘兵衛に刀まで抜かせてしまい、村の守りに戻ることになりますが、後で川向こうの家が野伏によって燃やされるシーンでは茂助は集まった村人たちを「持ち場に帰れ(けえれ)」と言って追い返す、リーダー的な役割を担っています。
ラストシーン、農民たちの陽気な田植え歌で終わりますが、この時、自ら太鼓を叩き、先導する利吉に対し、茂助や万造が目立ちませんが、きっと田植えのなかに混じっているのだと思いました。与平は最終決戦で背中に矢を受けているので(シナリオでは死んでないそうですが)、きっと傷の療養してるんだよ!と思ったりしました。
そして、リーダー勘兵衛、トリックスター菊千代、孤高の剣客・久蔵、若侍・勝四郎といったところはすぐに覚えられるものの、あとの3人で躓きがちなのも「七人の侍」初心者にはありがちなことだと思います。というか、わしがそうだった。
平八は「薪割り流を少々」と言ってること、旗を作ること、7人のなかで真っ先に倒されてしまうことなどから比較的印象に残りやすいと思います。
あと、倒れた4人のなかで、平八だけが戦死ではなく、女房を追った利吉を庇っての死であるというところも異色というか、平八らしいなぁと今回、思いました。
中盤、斥候の野伏から、野伏たちの拠点が山にあると知った勘兵衛たちは夜襲をかけることにします。この時、利吉を案内に向かったのが久蔵、平八、志願したけど勘兵衛に止められた勝四郎の代わりに菊千代でした。
このシーン、久蔵と菊千代と勝四郎はわかりやすいのです。久蔵は勘兵衛に曰く「己をたたき上げる、ただそれだけに凝り固まった奴」ですので合戦の機会は逃さないでしょうし、菊千代は元々は百姓ですので功名心は人一倍、腕前も7人のなかでは最強ですがトラブルも好きでもめ事には自分から首を突っ込んでいきそうなタイプです。勝四郎は、そもそも勘兵衛を百姓たちに協力させることになった影の功労者であり、正義感だけが突っ走った若侍です。
でも、五郎兵衛がその腕前を「中の下」と評す平八が、たとえ奇襲とはいえ、野伏の砦に志願するというのは前にもどっかで書きましたが意外だと思いますし、勇気のある人なんだろうとも思いました。それだけに利吉を引き留めようとして種子島に撃たれて命を落としてしまうシーンがより印象に強く、それまでの千秋実さんの飄々とした演技と相まって、彼の死を嘆くシーンがより胸を打つのだと思いました。
勘兵衛をして「古女房」と言わせるほどの付き合いを持つ七郎次の格好良さについても今回は惚れ直しました。勘兵衛にさらっと話す先の戦で生き延びたこととか、「走れなくなったら戦は終わりだ」と言うところとか、もともと好きなキャラではあるんですが、勘兵衛に誘われた時に二つ返事どころか黙って微笑んで見つめ返すというシーンが良かったです。七郎次が勘兵衛に寄せる信頼と、勘兵衛がその七郎次を頼みにしているという2人の関係がこの短いシーンで凝縮されていて、七郎次かっけ~!!!と感動しました。
あと忘れちゃいけないのが木賃宿での七郎次の振る舞いです。勘兵衛にさりげなく、すすぎ水を持っていく、着物のつくろい、まさに「古女房」。七郎次いいよ七郎次vv
そして初心者がいちばん躓きやすいのが五郎兵衛。
今回は見ていたら、五郎兵衛の活躍はそれなりに多かったんですよね。ただ、やっぱり、一人だけ死に際が描かれていないのが残念。
平八が倒れて、どうやら平八の受け持ち分を五郎兵衛が担うことになったんですが(ほかに勝四郎しかいないからしょうがない)、勘兵衛が「良い城には1ヶ所だけ隙がある」と言ったように久蔵と五郎兵衛が守る裏山からの道路を野伏たちが攻めてくる場所に仕掛けたわけです。よって、激戦になるのは必須、想定のうちなわけなんですが、五郎兵衛は種子島の2発によって倒されてしまったようです。村の中に招いた野伏たちを追い詰める勘兵衛が、その音で、その場を七郎次に任せ、走っていくと、すでに事切れ、運ばれてきた五郎兵衛の死を嘆くというシーンのみなわけです。
もっとも、この時の五郎兵衛の死は、菊千代が功名に走ったためでもありましたから、菊千代が落ち込んでしまい、勘兵衛に慰められるというシーンにも繋がるのでそれなりに意味はあるんですけど、五郎兵衛自身はすでにいないのでわかりづらいんだろうと思いました。
ただ、五郎兵衛自身は勘兵衛に次ぐ2人目の侍でもあり(勝四郎がすでにいますが、認められるのは最後だし)、「ご冗談を」と言って影に潜んだ勝四郎の襲撃を見抜くという剣豪らしいエピソードもあるわけなんで、慣れると勘兵衛が頼みにするナンバー2というポジションは他の5人にはまた替えがたいのです。
終盤、五郎兵衛のポジションには久蔵が収まってますが、久蔵だと話が弾みそうにないし。
あと、鉄面皮かと思っていた久蔵が、主に菊千代や勝四郎がらみだったりしましたが、けっこう声をあげて笑うシーンがいくつかあったのを発見したのも嬉しかったです。久蔵格好いいしね。「己をたたき上げる、ただそれだけに凝り固まった奴」と言われてるけど、勝四郎と志乃の恋を黙っておいてあげるとか、実は優しい人というエピソードはギャップ燃えでしょうか。
また配役のなかで2番目(三船、志村に次いで、志乃役の津島恵子さんと一緒)に登場する島崎雪子さん演ずる利吉の女房の鬼気迫った演技は、いつ見ても凄いと思いました。
どこかでかかれば、また見に行くと思います。日本映画の最高傑作です。
たんぽこ通信 映画五十音リスト
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