監督:ケン=ローチ
出演:ジミー=グラルトン(バリー=ウォード)、モシー(フランシス=マギー)、ウーナ(シモーヌ=カービー)、シェリダン神父(ジム=ノートン)、シーマス神父(アンドリュー=スコット)、ほか
見たところ:MOVIX橋本
イギリス・アイルランド・フランス、2014年
ケン=ローチ監督の最新作。
前作「
天使の分け前」のコメディ色はなく、いつものケン=ローチ監督の、名もなき市井の人びとに寄せる優しさと、権力者に向けられる厳しさが感じられる社会派な作品です。
1932年、悲劇的な内戦から10年後、故郷のアイルランドにジミー=グラルトンがアメリカから帰国する。仲間たちに歓待されるジミーだが、年老いた母親との平穏な暮らしを望んでいた。しかし、10年前、ジミーがアイルランドを去らなければならなかった伝説のホールを知った若者たちはジミーにその再開を望む。そこは人びとに芸術やスポーツを教えながら、人生を語り合い、歌とダンスに熱中した場所だった。最初は再開を渋っていたジミーだったが、働くところもないという若者の熱意に動かされ、ホールを再開する。だが、ジミーと仲間たちを共産主義者と罵るファシストや教会が、ホールへの圧力を強めていくのだった。
ジミー=グラルトン氏はアイルランドで唯一、国外追放となった人物だそうで、1945年にニューヨークで亡くなりました。穏やかだけど確固たる信念を持ち、弁も立ち、人びとに指示されるジミーですが、それだけに犠牲にしたものも多かったのでしょう。ただ、裁判もなしの国外追放に訴えたお母さんの証言が、ラスト、ジミーの演説よりも胸を打ちました。この母あっての息子なのだなぁというところが素敵でした。
モシーはジミーの親友とも言える存在ですが、ファシストの圧力などもあり、幼い娘と離ればなれに暮らしています。でも、陰に日向にジミーを支えるところは「
麦の穂を揺らす風」のダンを思い出す好印象でした。
ウーナはジミーの恋人でしたが、一人娘で老いた両親がいたため、ジミーとともにアメリカに行くことができず、別の男性と結婚、子どもも2人います。でも、今でもジミーを愛していて、ホールの活動を助け、ジミーの精神的な支えであったことは疑いようもありません。ジミーがアメリカからのお土産で贈ったドレスを着て、誰もいないホールで2人でそっと躍るシーンは、なかなか良かったです。
シェリダン神父はジミーの宿敵でもありますが、互いに認め合う人柄なところが、けっこういい感じ。シーマス神父はよりジミーたちに心を寄せるところはあったようですが、表だって味方になるところがないので、中途半端と思われてそうです。
キャストには書いてませんが、ジミーと対立するファシスト、オキーフの娘マリーが個人的にはいちばん魅力的でした。ジミーのホールに通い、父親に鞭で打たれてもやってくる気丈さと、ラスト、国外追放を受けて車で連行されるジミーを追う自転車の若者たちに混じった勇気は、きっと、こういう人たちがジミーの伝説を伝え、自由の尊さを語り継いでいったのだろうなぁと思わせる希望を見せてくれます。
そういう意味では、この話、ジミーが国外追放になり、生涯、アイルランドに戻れることはないという点でハッピーエンドではないのですが、ジミーを見送った若者たちの姿を見ていると、希望も捨てたものではないという監督のメッセージも見えて、相変わらずの良作でしたv
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