監督・脚本・原作:新藤兼人
出演:森川友子(大竹しのぶ)、松山啓太(豊川悦司)、森川定造(六平直政)、泉屋吉五郎(大杉漣)、森川勇吉(柄本明)、森川チヨ(倍賞美津子)、啓太の叔父(津川雅彦)、大地泰仁(森川三平)、松山美江(川上麻衣子)、ほか
見たところ:横浜シネマ・ジャック&ベティ
2011年、日本
わしと母と妹が豊川悦司さんのファンなわけです。なので見に行きました。
以下は公開中の映画につき、続きにしまっておきます。
昭和19年、中年部隊として召集された松山啓太と森川定造の運命は、上官の引いたくじによって決まった。松山啓太は宝塚歌劇場の掃除に行って生き残り復員、森川定造はフィリピンに向かう途中、船が撃沈されて帰らぬ人となった。生前、二段ベッドの上と下同士で仲良くなった啓太と定造は、森川が妻から送られたハガキを巡って約束を交わす。定造が死に、啓太が生き延びたら、妻にはハガキを読んだと伝えてほしいと。検閲が厳しすぎて定造は「祭りだというのに、あなたがいないのでなんの風情もない」と言ってよこす妻に返事も書けなかったのである。しかし、啓太が故郷に戻ると、彼が死んだと思い込んだ妻と父ができており、大阪に逃げ出していた。啓太は村中の笑いものになって毎日を船に乗ってぼんやりと過ごし、そんな生活を4年も続けて、家を叔父に売って、ブラジルに逃げようと決める。そのために荷物を整理していると、すっかり忘れていた定造のハガキが出てきて、啓太はブラジルに行く前に定造の妻、友子に会いに行くのだった。定造の実家は貧乏で田畑も持っていない。その上、心臓の弱い父と母は畑作仕事もできないため、一家の働きは定造がたった1枚の畑を売って身元を引き受けた妻・友子の肩にかかっていた。ところが定造の戦死により、友子はその弟・三平と再婚させられるが、三平もすぐに沖縄に出征し、戦死してしまう。義父も心臓発作で呆気なく死に、義母は夫の後追い自殺をしてしまい、啓太が訪ねた時には世界中に恨みと憎しみの眼差しを向ける友子一人がいるだけであった。啓太から定造のことを聞かされ、友子は「なんで、あんたが死なんかったんね?!」と激しく問い詰めるが、いつか啓太の話に惹かれていくのだった…。
最初、ちょろっと啓太と定造が出てきて、ハガキについて約束を交わします。それから場面は少し戻って、友子が定造の出征を見送り、白木の箱を迎え、次々と家族を失っていく様を描いていきます。定造の死後、「帰る家はないから」と言って森川の家に残る友子に、義父母が少し小ずるい様子で次男との再婚を迫っていく、その次男もさっさと戦死してしまい、義父母も次々に死んでいく展開は息を呑むばかりなんですが、大竹しのぶさん演ずる友子が石のような表情をしているので、いったい、この人、どうなっちゃうんだろう??と引っ張ってくれます。唯一、三平とのシーンでは彼女なりの愛情も見せるんですが、もともと父親が寝たきりだったので身体も売らされるような飯屋に奉公、という薄幸の女性なもんで、その境遇からたった一枚の畑を売って助け出してくれた定造には限りない愛情と、不器用な甘えが見えて、定造を演ずる六平直政さんの無骨さもあって、ほのぼのとしたいい夫婦のシーンになってるのでした。
そこへ啓太がやってきて、友子は生き生きとし始めます。泣き、わめき、怒り、今までの理不尽さ、運命というには残酷な仕打ちに石のように耐え、受け入れてきた彼女が人らしくなっていくのは、これだけ運の悪い女が、初めてもらったプレゼントが啓太だったんじゃないかと思わせるような展開。トヨエツはいい男だしな! 一方の啓太もくじ運こそ良かったものの、妻には逃げられ、村中から女房を寝取られたとあざ笑われる始末。そういう意味では、この2人、けっこう似たもの同士で不幸っぷりはいい勝負。でも、そんな2人だからこそ、ここに来て、やっといい相手に巡り会えたね、やっと一緒に生きていけるねと思うと、友子も一緒にブラジルに行きたいと言い出す展開は、唐突〜? でも納得しなくもない。
ところが新藤監督の凄いところは、ここで安易に異国に逃げ出すという選択を2人に許さないこと。この国から、この故郷から逃げ出すのではなく、大勢の人びとを失った日本に残り、2人で生き続けるということを最後に選ぶわけです。2人で麦を植え、麦を踏み、水をくみ、ご飯を食べる。そんな、地に足のついた生活こそが、結局は尊く、敗戦した日本を支えてきたのであり、友子と啓太はずっと、そうして生きていくのだという高らかな人間賛歌にも思えるのでした。
なにしろ圧倒的に大竹しのぶさんの存在感と迫力が凄かったです。トヨエツ負けてる。ぶっちゃけ、友子は大竹しのぶさんじゃないと駄目だけど、啓太は誰でもいい感じさえしている。でもトヨエツは好きなんで、啓太がトヨエツで、友子の3番目の旦那が啓太で良かったと思います。
定造役の六平直政さんは実直な感じがいいと思いました。不器用で、うまく立ち回ることはできないけど、一途に友子を愛してるってところがマッチしてました。
柄本明さん、出番は少なかったのですが、友子に手をついて「三平と再婚してくれ」と迫るシーンで、アップになった時に目がぎらりんとするカットは小ずるくて良かった。もっと長生きするかと思ったんだけど、意外に早死にでしたね。
倍賞美津子さんはあんまり夫の後追い自殺はしそうにないね、とままと話しました。力強く、友子と一緒に生きていけそうなタイプで、もうちょっとはかなげというか、印象の薄い、旦那や嫁や息子に頼り切りの目立たない女性を持ってきた方が良かったかもしれません。
大杉漣さんの吉五郎は、粗筋では全然言及してませんが、村の世話役で、友子が好きなのが見え見えなのでした。悪い人じゃないんだけど、善意の押しつけがましさとか鬱陶しさが、さすが大杉漣さんって感じ。
戦争を憎み、国を憎み、それでも人間は前を向いて生きていける。そんな力強いメッセージにあふれた名作なんですが、そういう希望のあった敗戦後と違い、放射能に冒されつつある日本、どんな希望を持てばいいのだろう、子どもたちに、次の世代に、どんな希望を提示できるというのだろうと思います。
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