藤原てい著、中公文庫刊。
作家・新田次郎氏の奥さんでもある著者が満州から日本・諏訪に戻るまでを綴った引き揚げの話。初めて読んだ時にぼろぼろと泣いた記憶があり、もう一度読みたいと思って十年ぶりくらいに再読したのですが、次々に襲いかかる苦難に、最初は泣いているしかできなかった著者が次第に奮然と立ち向かっていく様は描写も生々しく圧倒されましたが、肝心の涙はちっともこぼれてこなかったという不思議でした。多分、既に書いたように、最初のうちこそ泣いてばかりで頼りなかった著者が、夫が捕虜として捕られた辺りから三人の子ども(しかも一人は乳飲み子)を守るべく、母は強しを体言するに至っては圧巻の一言に尽きるからじゃないかと思います。あの時代、多くの残留孤児を生み出してしまったことからも、子どもを抱えて日本に戻るのがどれだけ大変だったかは、現代に生きるわしの想像を絶するものだったのではないかと思うんですよ。けれど藤原さんは誰一人欠くこともなく帰ってきた。そのことに圧倒されちゃって涙も引っ込んだのかなと思いました。
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