山本周五郎著。新潮文庫刊。
表題作のほか、「お美津簪(かんざし)」「羅刹」「松林蝙也」「荒法師」「初蕾」「壱両千両」「追いついた夢」「おたは嫌いだ」「失恋第六番」を収めた短編集です。
このうち「失恋第六番」だけ現代物で、それ以外は時代物ですが、「お美津簪」「壱両千両」「追いついた夢」が長屋物で、「羅刹」が芸道物、「荒法師」が珍しく坊主が主人公、それ以外は武家物です。
まぁ、一口に武家物といっても恋愛物だったり、武士は辛いよだったりしますので相変わらずバラエティに富んだ作風が楽しめる一冊となっています。戦前から戦後まで、わりと初期の話が多いのが特徴でしょうか。
おもしろかったのは「羅刹」「壱両千両」「追いついた夢」でした。
「羅刹」は面作りの主人公がタイトルの羅刹の迫真性を追求する余り、本能寺に乗り込んで信長の死を見届けて、それをモデルに面を作るも、実はそんなものは芸術でも何でもなかったことに気付いて自ら面を割ってしまう話。
「壱両千両」は訳あって藩を出なければならなくなった武士が長屋に身を寄せ、そこの貧乏とか人情に触れて癒やされる感じの話。
「追いついた夢」は、長年かけて店の金を不法に貯め込んだ番頭が、いざ家も手に入れ、好みの若い女も見つけ出し、これから老いらくの恋を楽しもうとした矢先にのたれ死んでしまい、女が想っていた男を呼び寄せて、病気の母親とも一緒に暮らせるようになってめでたしめでたしの話。
今度は長編を読もうと想いますが、「青べか物語」にはいつまでも食指が動かず、「樅ノ木は残った」は何度でも読み返したくなる不思議です。
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