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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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〈在日〉文学全集 第11巻

金史良(キム=サリャン)・張赫宙(チャン=ヒョクチュ)・高史明(コ=サミョン)著。磯貝治良・黒古一夫編。勉誠出版刊。

光の中に」以外のレビューです。

収録作品は金史良さんが「土城廊(トソンラン)」「天馬」「草深し」、張赫宙さんが「餓鬼道」「岩本志願兵」、高史明さんが「夜がときの歩みを暗くするとき」です。「夜がときの歩みを暗くするとき」が全体の2/3を占める長編で、ほかは短編でした。
また、高史明さんの作品以外は皆、朝鮮が植民地下にあった時代に発表されたものなので、そこら辺の事情も鑑みて読む必要があるんじゃないかと思います。そのなかで平壌の貧民区を描いた「土城廊」は直接に関係ないように見えますが、日本の植民地とされた朝鮮で大々的に土地測量を行い、多くの土地を奪い取ったのは紛れもない日本であり、そのために大勢の自作農民が小作農民にさせられ、土城廊のような貧民区に流れ込んでいったのですから、どの話でも日本の責任は大きいわけです。
そういうのが在日の文学の特徴というか、わし的に欠かせない要素だと思ってもいるもんで、在日を脇に置き、共産党員として苦悩する主人公を描いた「夜がときの歩みを暗くするとき」は、あんまりおもしろくなかったです。
時系列がわかりづらく、読んでいるうちにこれは過去の話だったんだと気づきましたが、こういう時系列を逆転させる話はわかりづらいことが多いですね。
主人公の悩みは、実は著者の体験を引き写しているところもあるみたいなんですが、在日の部分を取っ払っちゃって日本人(しかも広島出身)にしたのだけど、最後まで夫のある女性と関係を持ち、心中未遂を起こして最後は7年の刑(心中によるのではなく別の事件で)を受けて刑務所に送られるという流れは共感しづらかったです。
まぁ、相手の女性も夫を捨てて主人公と関係を持つには動機があやふやというか、曖昧というか、見えづらく、むしろ、共産党員として貢献してきたにもかかわらず、朝鮮人という理由で党を追放されたという著者自身の体験の方がよほど興味を覚えたんですが、そこは主人公の親友の在日の方に反映されているだけでした。
ただ、その親友、金一竜が、朝鮮語もわからぬ「半日本人(バン・チョッパリ)」と罵られるエピソードとかのがずっと良かったんですが。

そして年譜を見て、高史明さんが、わしが中学生の頃(確か)流行った「ぼくは12歳」の著者のお父さんだったと知って驚いたのでした。読んだかどうかは定かではありませんが… わしが子どもの頃は妙に難病物(だいたい白血病とか骨肉腫)とか自殺物とか流行ってたんですよ。その一環だったような…

順番が逆になりましたが、そういう理由でおもしろかったというか興味を惹かれたのは「光の中に」、「餓鬼道」と「岩本志願兵」でした。
「餓鬼道」は、「太白山脈(趙廷來著)」の前史でした。話のなかで綴られた春窮まんまな世界でした。春窮というのは、春が来て、冬の蓄えを食べ尽くし、畑にも野山にも食べられる物がない季節を言います。一日一食しか食べられず、飢えて腹しか出ていない子ども、目の焦点も合わず、肌がかさかさになり、それこそ草の根でも食べるしかないのに畑作も稲作も始まり、重労働に追われる農民の悲哀をよく言い表した言葉でもあります。日本から独立したら、全てが良くなると思っていたのに、実際は何一つ変わらなかった小作人たちの嘆きでもあります。
そんな朝鮮の農民たちを苦しめた日本の政策、形ばかりの救済策に、ただ唯々諾々として従うしかなかった貧しい農民たちが、人間らしい扱いを求めてついに反旗を翻そうとしたところで幕だったんですが、ラストに限らず伏せ字が多くてどう終わったんだかよくわかりませんでした。

「岩本志願兵」は日本人のみならず、朝鮮人にまで及んだ徴兵制を喜んで受ける志願兵、岩本という若者を描いた、著者の体験も混じってそうな話でした。ラストの「全部の朝鮮同胞が一日も早く皇民化を完成するやうに祈るのであった」と占めたところなんかは、まるっきり李光洙(日本名:香山光郎)で、でも年譜を見ると「アナキストと交流」とかも書かれてるので不本意ながらの親日だったのか、しかし、敗戦後、日本に帰化(嫁が日本人)したところを見ると、最初からそういう要素のある人だったのかと作品とは別なところで興味が尽きません。

「土城廊」は平壌の郊外、大同江河畔にある貧民区の名称で、そこに流れついた人びとの姿を描きますが、作男から荷担ぎにまで落ちぶれた主人公、元三(ウォンサム)爺が隣人の先達(センダル)の嫁に横恋慕しつつも果たせなかった末路が気持ち悪かったという…。
「天馬」は日本帰りの作家、玄龍が精神的に追いつめられていく様を描きますが、皮肉が強すぎて読んでてしんどかったです。
「草深し」は火田民(焼き畑を主とし、定住できない最下層の農民)の健康調査に山に入った医学生の体験を描きますが、あんまりおもしろくなかったです…。

このシリーズ、前に金達寿(キム=ダルス)さんの第1巻を借りたことがあったんですが、梁石日(ヤン=ソギル)さんの「夜を賭けて(リンク先は映画レビュー)」が収録された7巻、「済州島四・三事件一人芝居台本」が収録された10巻に興味が湧いたので、また借りてこようと思います。しかし、この本、重いのだ…

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