監督:エラン=リクリス
出演:アマル(ヒアム=アッバス)、モナ(クララ=ルーリ)、ハテム(エヤド=シェティ)、マルワン(アシュラフ=バルホウム)、ハメッド(マクラム・J=フーリ)、母(マルレーン=バジャリ)、アミン、アリク(アロン=ダハン)、タレル(ディラール=スリマン)、イヴリーナ(イヴリン=カプルン)、ジャンヌ(ジェリー・アンヌ=ロス)、ほか
見たところ:茅ヶ崎市民文化会館
2004年、イスラエル・フランス・ドイツ
茅ヶ崎・良い映画を観る会主催の例会です。わしは会員ではありませんが、興味のある題材なので観に行ってきました。
ゴラン高原をイスラエルに占領されて、シリアの民は国のない民となってしまった。ゴラン高原のある村で、今日はモナが嫁ぐ日。姉のアマルは支度に忙しいが、一度、結婚に失敗したモナは写真だけで結婚することになった相手に不安を隠せない。それに「境界」を越えてシリアへ行けば、二度と村に戻ることはできないのもモナが塞ぐ原因だ。やがてロシア人女性と結婚し、村を出た長男のハテム、怪しげな商売に手を染める次男のマルワンもやってきて、パーティが進み、一家は「境界」へ向かう。そこには喜劇俳優として活躍するモナの婚約者タレルと、シリアに留学している末弟のファーディが待っているが、思わぬ出来事が彼女らを待ち受けていた。
登場人物は4人姉弟、両親、長女の家族(夫と娘2人)、長男の家族(妻と息子)、次女の婚約者のほかに村人が大勢と多彩ですが、主役である長女を中心に一家が描かれるので、そんなに混乱しないで観られました。
群像劇かと思って観ていたら、すぐに長女のクローズアップが大きく、主役と判明、タイトルロールの次女は、パーティが終わるまでマリッジブルー(まぁ、一度、結婚に失敗した上、今度の婚約者も有名なスターではあるけど、写真でしか見たことがないので無理もない)なもんで、美人さんではあるのですが、華を添えるにはいささか物足りなくありますけど、「境界」へ行ってから、ラスト、かなり強烈な印象を与えてくれます。そして、この2人のあいだにいる2人の男性、長男のハテムは信仰に反してロシア人と結婚したために長老が「ハテムを入れたら、二度とあんたとはつき合わん」とお父さんを脅迫するほど恥と思われており、お父さんは本当は8年ぶりに再会する息子と「境界」を越えたら二度と会えない娘を会わせてやりたいと思っているのに、そしてたぶん、息子をいい加減に許しているのにそうではないという態度を取り続けなければならないという辛さを負っているのに、なかなかラストまで理解してもらえない(そういう同情も買いたくないという意地とプライドもあり)のが観客にはわかっているだけに阻害される長男よりもお父さんに同情し、次男のマルワンは、その分、周りへの態度は軟派で、目端の利く商人として海外行ったりしているものの、ちょっと軽いので終盤、「境界」でモナのパスポートをイスラエル側とシリア側でやりとりする赤十字(か何かで、詳しい組織はわからないんですが、国連かもしれません)の職員であるジャンヌと恋仲だったのに振られたためにちょっと格好良くなかったり、圧倒的に女性の方が強く、しなやかで優しく、魅力的だったりします。
特にアマルは、保守的な夫アミンの反対を押し切るような感じで大学へ入学しようとしており、父の意に沿わない恋人とつき合う娘にも寛容で、でも弱さと、ロシアへ行ったハテムを気遣う優しさを見せてくれて、とてもいい感じなのでした。
しかし「境界」に行って、イスラエル側の職員にパスポートに出国スタンプを押され、いよいよ家族には二度と会えない(国境越には話せなくないんですが、拡声器が必要)モナがシリアへ行こうとして、そのパスポートをやりとりするのがジャンヌの役目なんですけど、シリアに行ったら、「出国スタンプ押したパスポートは認められない」と始まりまして、それまでのいろいろと確執はあったけど、披露宴も無事に済んで、モナはめでたく花嫁になり、後は花婿に引き渡すだけというおめでたいムードが一転して、イスラエルの占領下にあるゴラン高原と、その向こうにあるシリアという国家の対立の緊張感とか対立なんかをこんなささやかな庶民の幸せまで引き裂こうとしているのかという、先が読めない展開になりまして、思わぬラストで幕となるのでした。
イスラエル側は「規則が変わった」と言ってスタンプを押し、シリア側は「聞いていない」と言ってパスポートを突き返し、どっちも譲らないもんで、すったもんだ。その都度、ジャンヌが行ったり来たりで双方の言い分を聞き、直接話したらいいのに、そうしないもどかしさ。ここまで紆余曲折あったけど、何とか幸せになろうとしているモナたちを足止めにする気の毒さとか、もう、タイトルは「シリアの花嫁」なんだけど、いったいどうなっちゃうんだろうという先の読めなさ加減はなかなかのサスペンス。とうとうシリア側の国境警備兵が「出国スタンプを消したらいい」と言ったので、パスポートを持ち帰ったジャンヌがイスラエル側の係官を説得、それまで杓子定規な答えしかしてこなかった係官もさすがにモナたちが気の毒になったと見え、「わたしにも娘がいるから」と言って修正液で出国スタンプを消したのに、いざシリアに戻ったら、そういう提案をした兵士はすでにダマスカスに帰っちゃうんですから、もう、最初から解決する気あるのか! ヽ(`Д´)ノ と思ったりするわけなんでありました。
しかし、それまで周りの言うままに動くだけだったモナが、ここで大胆にも越境、シリアに向かってしまいまして、本当はパスポートがないと通れないのに、ゲートを通っちゃって、はらはらと見守る家族、涙ながらにその場を離れるアマルで幕で、この場合、モナはいったいどうなってしまったんじゃ〜?! 違法に国境を越えたとして撃たれるのか? シリアに? イスラエルに? でも大輪の花のような笑顔を浮かべてタレルのいる側に近づいていくモナと、アマルの涙とはどう解釈したものか? 日本という国にいると割り切れないラストにいろいろと疑問が浮かびます。
そして現在、シリアの内戦で同国人を大量に殺しているアサド大統領が、この映画ではイスラエル側のシリアの人びと(お父さんのハメッドとか)に好意的に迎えられているのも時代を考えさせられるのでした。
たんぽこ通信 映画五十音リスト
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