星野之宣著。スコラ漫画文庫刊。全2巻。
SF漫画「2001夜物語」とかで知られる星野之宣さんのSFです。シーラカンス、バミューダトライアングルなどと、白亜紀、古生代といった時代を結びつけた壮大なスケールの話です。
コモロ諸島でシーラカンス(現地名:ゴンベッサ)の密漁に従事する少女ガイアは、漁の最中に祖父を巨大な生き物に殺される。海洋調査船セーシェルに助けられたガイアは、シーラカンスが湧き出るブルーホールに船長フォスらを案内するが、そこは太古の地球とつながる不思議な穴だった。半年後、ホーク博士の主催するブルーホールの調査に招かれたガイアとフォスは、ブルーホールに呑み込まれ、太古の地球に行ってしまうが、主催者のホーク博士はブルーホールについて恐るべき計画を抱いていたのだった…。
星野之宣さんの漫画ですと、印象深い短編に「冬の惑星」というのがありました。人類が他の惑星に移住するようになった未来、とある惑星の住人たちを追った話です。その惑星の住人たちは苛烈な気候のためか、寿命が数年と短く、1年で成人し、子をなし、死んでいきます。まずこのアイデアに度肝を抜かれました。で、話はその現地人の一人の少年が、タブーを破って、地球からの調査員を現地人たちが聖なるものと考える氷の洞窟に案内したために片足を失ったところから始まります。不自由ながら、彼は成人し、妻を迎え、子どもを得ますが、皮肉なことに子も同じ過ちを繰り返してしまうのです。彼がかつて地球人を案内した洞窟には、現地人たちが死の間際に作る氷柱が収められていました。言葉を持たない彼らが、その氷柱を作る時にだけ唄う詩、それは言葉をなさず、けれども、彼らの一生を語るだけの力を持っていました。しかし、かつてタブーを犯したために足を失い、今度は我が子もタブーを犯してしまった男の氷柱は洞窟に収めることを許されず、氷雪が吹きすさぶ高山のてっぺんに残されました、という話です。言葉を持たない人びとが死の間際に発する唯一の言葉、というアイデアも秀逸ならば、タブーを犯したために受け入れられない男、という存在も惹かれました。
閑話休題。
さて、「ブルーホール」です。スケールがでかい上、バミューダトライアングルという既存のものを使うのが星野さんの漫画はうまいのです。恐竜たちの生きていた時代と現代がつながったら!というアイデアを、生きた化石と言われるシーラカンスと結びつけたところもおもしろいし、さらにはブルーホールを貫くパイプを作り、自由に過去と行き来しようという展開もビッグ。でも、そこは人間のすることです。生物学的に恐竜に興味を持つだけでなく、ホーク博士のように、汚れきった現代の空気と水をブルーホールを通して過去と入れ替えてしまえ、と言い出す私欲に凝り固まったのもいるわけです。しかも、ブルーホールはいくつかあり、白亜紀ばかりか三葉虫の生きていた古生代までつながれていたとなると、さて、進化とは鶏が先か、卵が先かとばかりに、つながったタイムトンネルが引き起こしたことにもなってしまうわけでして、どうなっちゃうんだろうと先が読めません。さらに、恐竜絶滅説の1つに巨大隕石がありますが、そいつも登場するに及んでは見事なアイデアのオンパレード。話はどんどん拡がって、どう収集をつけるのか、わくわくが止まりません。
勝手な人間の思惑に怒り、恐竜の赤ん坊を救いたいと思うヒロイン・ガイアが魅力的。最後の最後まで、戦う姿勢もいい感じです。ふとっちょのフォス船長も、いつの間にかガイアといいコンビになってて、頑張っているかと思えば、悪魔のような天才ホーク博士の発想もとんでもで、久々に星野SFはおもしろかったです。ほかにもいろいろ読んでるんだけど、また久々に読みたいなぁ。
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