山本周五郎著。新潮文庫刊。
ナイトキャップに山本周五郎さんの小説を読むという贅沢。
時代物を集めた短編集です。ナイトキャップなんで短編集のが良いのです。
表題作の他、「内蔵允留守」「蜜柑」「おかよ」「水の下の石」「上野介正信」「真説吝嗇記」「百足ちがい」「四人囃し」「あすなろう」「十八条乙」「枡落し」の12編を収録。
武家物が「内蔵允留守」「蜜柑」「水の下の石」「上野介正信」「真説吝嗇記」「百足ちがい」「十八条乙」。
下町物が「おかよ」「四人囃し」「深川安楽亭」「あすなろう」「枡落し」です。
また滑稽物が「真説吝嗇記」「百足ちがい」で、あとはわりとシリアスで、年代的には戦中のものから著者最後の完結作「枡落し」までとバラエティに富んでます。
わしが好きなのは「上野介正信」で、上野介正信は狂言回しの茂助が仕える殿様なんですが、武家の退廃を目にして反乱を起こした上野介正信は、精神に異常を来したために蟄居とされ、やがて20年後に自殺したところに茂助が訪ねていくという短い話なんですが、茂助と上野介正信の心のふれあいと、最後に殿様が「美味い」と言った干し柿を墓前に供えるという筋立てがなかなか良かったです。こういう忠節物は弱いわしだった。
あと、わりと悪人というか、事情ありの人たちが主役の話が多くて、1話ずつ大事に読みました。いや、ほんとに山本周五郎さんはいいです。
ただ、なぜか映像にするとあんまり良さが出てないので、トールキン教授が仰った「
心に描いた不思議なイメージを視覚的に表現するのはかんたんすぎる。手が先走って心に勝ったりするのである」ていうのに近いのかなと思います。
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