松本清張著。新潮文庫刊。
去年はあんまり本を読まなかったんで、反省して、今年は本を読もうと思い、ついでに全然読んだことのなかった松本清張とかどうだと思って、この「けものみち」と「張込み」を借りたのに、結局、そんなに読んでないという話。
脳軟化症で寝たきりになった夫の寛次を置いて、住み込みで働きに出る成沢民子は、次第に夫の存在を疎ましいものに思うようになり、放火して殺してしまう。その事件を嗅ぎつけた刑事の久垣は、民子を追ううちに疑惑と欲望に憑かれ…。
一応、民子が主人公なんだろうと思います。前にドラマ化した時に名取裕子さんが演じてたような記憶がありますが、見た覚えはないので、単なる、こういう役柄をやりそうというイメージかもしれません。
ただ、では民子に感情移入できるかというと、これがちと難しく、最初のうちはいいんですよ。脳軟化症で寝たきりになった夫を置いて、住み込みで働いてるあたりは。その寛次が、民子を独占したいという嫉妬心から妄想を働かせ、とうとう民子の下着とか身につけちゃって、「俺は電波を受けている」とか言い出すと、もうこいつダメダメな空気が漂ってきまして、でも死にそうにないのでついに放火して殺してしまうという辺りは、まぁ、よくありそうな話ではありますが、民子にも同情の余地はあると思うんです。しかし、小滝にかくまわれ、自称弁護士の秦野と知り合い、政財界の黒幕・鬼頭の家に連れていかれた以降は、民子の小物っぷりが鼻についてかないませんでした。
なんちゅうの、夫殺しという人の道から外れたことをしてしまった民子は、けものみちに踏み込んでしまったわけなんだけど、鬼頭の情婦になって、いいように弄ばれていても、もしも鬼頭が死んだら料亭の1つももらいたいという願望を持っているわけなんですよね。で、再三、鬼頭にも秦野にも念押しをするんだけど、相手が道路公団だかの総裁の首を簡単にすげ替えられる大物なのに、何、このささやかな夢は??って感じがつまらんわけです。まぁ、料亭なんて、わしら庶民が持とうと思ったら、そうそう持てるものではないんですけど、なんていうの、もっと大きなことをおねだりしてもかないそうな相手なのに、料亭風情で満足して、何か自分がすごい人物になったような勘違いしてそうな民子に全然魅力がないわけでした。
じゃあ、もう1人の主人公ともいえる久垣刑事はどうかというと、これが小悪党を絵に描いたような人物で、民子を執拗に追いかけるのも正義感とか、職業柄というより、情欲ときてるもんで、これがまた読んでて高揚感がありません。そのくせ、平の刑事なもんで、上から簡単に抑えつけられて、本人、反発してるつもりなんだろうけど、結局、同じ穴の狢じゃんって小物ぶりがつまらん。
しかも、基本、この2人の視線で話が進むもんですから、大物の鬼頭とか、何かちっぽけに見えて、民子にかかると鬼頭も単なるエロジジイとなりますと、なかなか正体を見せないという不気味さ、鬼頭の言葉1つで、久垣の首なんか簡単に飛ばせるという大物ぶりを匂わせはしますが、突っ込みが物足りない感じです。
で、最後は鬼頭も秦野も死んじゃって、これまた小物というか、のらりくらりと世間を渡っていきそうな小滝が最後に残るというのも、なんかすっきりしないといいますか… どうでもいいけど、小滝を演じるのは草刈正雄氏が似合うと思った。
まぁ、政財界の黒い部分を描くというのが主題であるようなので、すっきりと解決というわけにはいかんのだろうなぁと思うのですが、民子と久垣の小物っぷりはいまいちでした。
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