監督:アンジェイ=ワイダ
ポーランド史を撮り続けるアンジェイ=ワイダ監督の最新作。たきがは的には、前に見た「
戦場でワルツを」よりこっちのが印象深く、また映画を見ている最中から頭痛がし始めて、うち帰ってからもさんざんだったのも、何かこの映画のラストでポーランドの将校たちが次々に頭を打ち抜かれていくその感覚にも似て(実際には即死しちゃうんで痛みなんかないはずですが)、圧倒的にこの映画のが印象深いのです。ごめんちゃい。
1939年ポーランド。9月1日、ナチス・ドイツはポーランドに侵攻し、不可侵条約を結んでいたソ連も東側からポーランドを攻める。ポーランド将校、アンジェイ大尉の妻アンナと娘のヴェロニカは、夫の消息を追ってクラクフからポーランド東部まで来るが、アンジェイとは生き別れになってしまう。そして1943年、ナチスはソ連の犯罪として、ポーランド将校を殺害したカティンの森事件を告発するが、ナチス・ドイツの敗北により、それはドイツの侵した犯罪にすり替えられていくのだった。
アンジェイ=ワイダ監督、何本か見ていますが(うちのレビューだと「
世代」「
地下水道」「
灰とダイヤモンド」。レビューは書いてないけど「コルチャック先生」)、ラストを見ていて、こんなにストレートに死を描く監督だったかな〜と思いました。たぶん、今まで見た映画が白黒ばかりだったんで、血にしても死体にしても負傷にしても、そんなに生々しく感じなかっただけなのかもしれません。それほど、ラストが壮烈。もう淡々とポーランド将校を殺し続ける赤軍ってのが凄まじい。当然、音楽も流れない。台詞もない。ただ、殺されるとわかった将校たちが祈りの言葉をつぶやくのみで、殺す側は淡々。
そこに至るまでの6年間も重い。なにしろ、真相は赤軍の仕業なんだけど、ポーランドは戦後、社会主義国として復帰したのもあるし、ポーランドの亡命政府はロンドンにあったけど、レジスタンスの中には赤軍の援助を受けたのもいたもんで、赤軍のしたことをナチスの仕業にしてしまっている。でも事実は変えられないと主張する人たちに容赦なく振り下ろされる当局の仕打ち。
おそらく、監督は、この映画をずっと撮りたかったのだろうと思います。ポーランドの人間として、カティンの森について撮らずに済まされなかったのだろう。凄惨なラストは、その怒りだろうかと感じました。見ているこちらもその惨い画面から目を離せない。目を離してはいけない。
でも、カティンの森の事件は1940年のものです。あれから69年も経っています。監督はまだその怒りを忘れていないだろうか、とも思うのです。怒りではなく、憎しみではなく、人として、単に告発しなければならないことを告発しただけかとも思うのです。
と思って公式サイトを見たら、監督の父親もカティン事件の被害者だそうです。そして映画の冒頭で「父母に捧ぐ」とありました。監督の母親も、この映画の女性たちのようにいつまでも帰ってこない夫を待っていた。カティン事件の真実は、まだその全貌を明らかにもしていないそうです。ついでに監督がこの事件を知ってから映画化するまでに半世紀もかかったことも、公式サイトで読みました。
戦争が終わっても終わらなかった事件。いつまでも真実を語ることが許されなかった事件。これは、ポーランドの人びとの中に打ち込まれた、深いくさびだと思いました。生き延びたイェジ中尉も、真実を語ることが許されず、自殺してしまいます。真実を語ろうとして秘密警察に捕まってしまった女性もいました。
懐かしいクラクフの映像に、ちょっぴりわくわくしました。もう10年以上も前だから、ずいぶんと変わったろうかと思います。中世ヨーロッパを思わせる町並みがとても素敵な町です。うまいもんも食った。けったいなもんも食った。また行きたいなぁ。
日本ではあまり知られることのないポーランドの事件を描いた映画です。その事実の前にただ首を垂れるのみです。
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