監督・撮影:チン=モヨン
出演:おじいさん(チョ=ビョンマン)、おばあさん(カン=ゲヨル)、ほか
見たところ:シネスイッチ銀座
韓国、2014年
「
牛の鈴音」のような味わいの名ドキュメンタリーです。
70年以上も連れ添う江原道(カンウォンド)に住む老夫婦。最初は寒々しい雪景色のなか、嘆き悲しむおばあさん、カン=ゲヨルさん。
哀切な嘆きから何かとても悲しいことがあったのはわかるけれど、詳しい事情が語られることがないまま季節は秋へ。
おしゃれな韓服を身にまとった幸せそうな老夫婦の姿。暮らしは決して豊かなものではないけれど、集めた落ち葉をふざけてかけ合う姿は幸せそのもの。正月になれば子どもたちが訪ねて来、誕生日をお祝いしてもらい、可愛い2頭の愛犬もいて、歳を取ったという以上の不安はお二人にはないようにさえ思えます。
けれど元気そうに見えるお二人は夫が98歳、妻も89歳と超高齢。現に二人の健康状態は決して良くなく、妻は膝が痛いと言い、夫は咳き込み、気管支が悪そうです。たまにしか来ない子どもたちも両親の面倒を診るという話で言い争いを始めてしまい、母のなだめようとする声にも耳を貸しません。
それでも二人は幸せだった。妻の見立てたお揃いの韓服を着て、妻の作った料理に舌鼓を打ち、妻の顔をなでながら寝て、妻に請われるままに歌い、長年連れ添い、愛し合い、信じ合う二人の姿には幸せそのもので、6人の子どもを失い、先に逝った者が子どもたちに寝間着を渡そうと誓い合うところも無邪気な約束に見えます。お二人の年齢を考えると日本が植民地に置いていた時代を乗り越えているのは間違いないので、話された以上の苦労があると思うのですが。
けれど老いは確実に二人に忍び寄っていて、ある時、夫の咳が止まらなくなって、そのまま弱ってしまいます。やがて迎える死。
夫のために見立てた服を燃やす妻。あの世でも服を着られるように。普通の服から燃やすと言います。見舞いに訪れる子どもたち。
最後のシーンでは冒頭のシーンとつながり、老婆の嘆きが夫の墓の前であったことがわかります。いちばんいい服、幼くして死んだ子どもたちに贈る寝間着を焼き続けるおばあさん。「あなたをいちばん愛している」という台詞が胸に迫るなか、エンディング。
タイトル以外は徹底してハングルを廃しており、最初から国際舞台を狙ってるんだろうなと思いました。スタッフロールもずっと英語でしたので。
傑作です。
たんぽこ通信 映画五十音リスト
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