金九著。梶村秀樹訳注。平凡社東洋文庫刊。
朝鮮の独立運動家であり、民族主義者の白凡こと金九の自叙伝です。「
太白山脈」でそう描かれているし、一読した感想はやはり、そうとしか思えないので
一部で言われている右派という言い方はしません。やっぱり松本清張には興味本位に朝鮮について書いてほしくなかったし、そんな小説をさも代表作のように収めている「昭和文学全集」も駄目だなぁと思います。
1949年に(おそらく李承晩の息のかかった)安斗煕(アン=ドウヒ)に暗殺された時には70歳になっていた金九でしたが、波瀾万丈な人生を歩んでおり、そこんところがまず驚きでした。ちなみに金九というのは本名で活動できなくなったので名前を変えており、もとは金昌洙(キム=チャンス)といったのでした。
産まれたのは1876年で黄海道の出身。
出生前から波瀾万丈で、両班(ヤンパン)階級だったのに有力者の恨みを買ったとかで常奴(サンノム)のふりしてたとか、どんだけですかね。しかも成長後は、東学党に加わったり、安重根(アン=ジョングン)の父親と親しくしていたり(安重根とは直接の面識はない模様)、閔妃が殺された復讐に日本の軍人を殺したり(このために本名で活動できなくなったよう)、出家もし、治安維持法違反で17年もの刑を受け(後に減刑された)たし、上海に亡命して大韓民国臨時政府の主席にもなり、南京や重慶にも行ったし(南京大虐殺前に離れ、重慶爆撃には遭った)、日本の敗戦後、帰国して朴烈(パク=ヨル)とも親しくし、南だけの総選挙に反対して朝鮮民主主義人民共和国に行き、金日成と会って、最後は暗殺とか、どんだけ働いてんだよもう… って感じです。
唯一、せっかく日本(本文中では統一して倭)に反撃するために軍人を教育して(これは国民党つながりなんですが、当時の中国では国共合作してたから共産党は表に出られないんでした)、さて!と思ったところで日本敗戦はタイミングが悪かったというにはあんまりな気もしました。ただ、後のアメリカの姿勢を見ていると韓国(臨時政府の方)が日本に攻撃してようが、やっぱり統治能力なしと見なして半島を分断していたろうとは思いましたが。
それもこれも、この方の行動は大半が日本のせいなんで、本文中で再三、日本を指して倭(ウェ)と蔑んだ呼び方をしてるのも納得するわけです。日本が首を突っ込まねば、東学党の乱もなかったし、閔妃も暗殺されなかった。植民地にしなければ金九もなかったし、臨時政府もなかった。日本は何と罪深いことをしたのだろうと思わずにいられません。
もっとも、なぜかファシスト国家として言及されてたのがドイツとイタリアだったんで、日本がなぜないのかと思いましたが、あれだ。日本はファシスト国家以上の悪だから、ドイツとイタリアよりきっと上だったんだろうなと思います。
東洋文庫はその名に恥じず、アジア系に特化してるので、いろいろ読んでみるつもりです。
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