金庸著。岡崎由美監修。小島瑞紀訳。徳間書店刊。全7巻。
いよいよ最終刊です。サブタイトルは「鴛鴦の譜」で、表紙もそれに相応しく令狐冲と盈盈でしょう。
この巻でとうとう岳霊珊が亡くなりますが、ほかにも次から次へと死者累々で、個人的には最後まで令狐冲可愛しを貫いた寧中則(岳夫人)が自害したのが残念でした。ただ、娘も夫も死んでしまうのでまぁ、しょうがないか…。
林平之はとうとう左冷禅とつるんで嵩山へ逃れますが、第3巻か4巻ぐらいで殺されたと思った労徳諾(崋山派の2番弟子)が、まさか嵩山派だったとは思いも寄りませんでした。令狐冲や、その弟弟子・陸大有を裏切った末路は哀れなものでしたが、ここら辺の敵はばっさり倒す、という展開は武侠ならではで、一般庶民には理解できないみたいなことを第6巻で言ってました。
盈盈に日月神教の猛毒を呑まされた岳不羣でしたが、恒山派の弟子をかどわかし、崋山に呼び寄せます。そして、第2巻で令狐冲が各派の秘技を破る方法を垣間見た例の洞窟(ここで白骨になっていたのは魔教の長老だったそうですが)に罠を仕掛けた岳不羣、そこに盲目となった左冷禅や林平之まで現れ、暗闇のなかで今は同派になったはずの五剣嶽派同士が争い、大勢の有力者も平弟子も殺されてしまいますが、機転を利かせた令狐冲、盈盈ともども左冷禅を倒し、洞窟を脱出したところで岳不羣の罠にはまります。しかし、岳不羣を殺したのは誰もが思いもしなかった人物でした。令狐冲を一心に慕う美少女尼・儀琳です。彼女は殺生を好まぬ尼の身でありながら、令狐冲がピンチなことを知り、そうと知らずに岳不羣に剣を突き立てたのでした。ここに恒山派は2人の師太、定閒と定逸の仇を討ったのです。
そういや、儀琳の両親が前巻で揃いましたけど、どうしてあんな強烈な夫婦からこんな純真な娘が生まれたのか不思議… というか、恒山派で育ったから純真なのか、儀琳… というぐらい、破天荒な夫婦でした。そもそも父親は不戒と名乗る生臭坊主だし、母親はこれまた無類の嫉妬深いと来てましたし…
岳不羣が倒された後で、仁我行を満を持して乗り込んできました。日月神教の悲願、武林の統一です。しかし、恒山派の令狐冲と衡山派の莫大先生しか残っておらず、莫大先生も生死不明で、漁夫の利を得たような形でしたが、仁我行は令狐冲のことはあくまでも娘婿として厚遇するつもりなので三度、誘いの言葉をかけましたが、令狐冲は頑としてこれを拒み、孝のために父を裏切れないという盈盈ともども死を覚悟して恒山派の一同とともに恒山に帰るのでした。男だぜ令狐冲…
そこに方証大師と冲虚道人を初めとする少林派と武当派のメンバーが駆けつけてくれ、恒山派に助太刀をします。まぁ、仁我行の頭のなかではそれも想定済みで、この機会に少林派も武当派もまとめて倒すつもりでいるんですが、この人もえらい性格が変わりまして、東方不敗と戦う前の方が魅力的だったなぁと思います。少なくとも「当主は永遠に栄え」とか言われて嬉しがって聞いてるようなキャラには落ちてほしくなかったんですが、盈盈曰く、「12年も地底湖の下に閉じ込められて性格が変わった」そうなんで、ラスボスとなって君臨しますが、体調を悪くして倒れてしまいます。あれま。
そして、恒山に現れた日月神教は当主が姿を表すことなく令狐冲と和解したことで仁我行の死を知るのでした。
めでたく夫婦となった令狐冲と仁盈盈はようやく秘曲・笑傲江湖を奏でます。その曲も思えば正派と邪派の確執を乗り越えようとするものでした。無惨な死を遂げた曲洋と劉正風の願ったとおりに令狐冲(恒山派の総師を儀清に譲った後)と盈盈によって演奏されたのです。
日月神教は向問天が後を継ぎましたが、仁我行のような野望は持ってないので中原は当分、平穏が続くでしょう。向兄貴は最後までいい人でした。
林平之は、仁我行が閉じ込められていた湖の下の牢獄に入れられました。仁我行と違って福威鏢局もなくなり、辟邪剣譜も失われた今、彼を助けようとする者は現れることもないでしょう。考えてみれば、彼は哀れな人間でした。家族を殺され、復讐のために辟邪剣譜を身につけたことで全てを失ってしまいました。確かに岳霊珊への仕打ちは惨いものがあります。しかし、だからといって彼のしたことを声高に非難するわけにもいかないと思うのです。
と思ってしまうくらいには、わしは令狐冲が魅力的じゃありませんでした。最後まで、彼の活躍にどきどきわくわくしませんでした。令狐冲の主人公属性が強力すぎるなぁと思ったのが最後まで引っ張りました。第2巻まで雑魚Aぐらいの実力だったのに独狐九剣を習ってからが強すぎ。
あとラスト、仁我行との最終決戦くらいやってほしかったです。というか、ラスボスとの戦いは武侠小説には必須じゃろう?! 戦いの最中に仁我行が倒れるならまだしもさぁ…。岳不羣も儀琳などという小物(キャラ的には魅力的なところもありますが、実力からいったら中ぐらい)にやられるなど、あってはなりません。というのも残念な点。
五剣嶽派はなくなっちゃうし、それもほとんど内輪もめって感じだし、まぁ、最初から正派=正義、邪派=悪って図式じゃないんだけど、ちょっと尻すぼみな終わり方でした。
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