監督:ケン=ローチ
出演:リッキー(クリス=ヒッチェン)、アビー(デビー=ハニーウッド)、セブ(リス=ストーン)、ライザ・ジェーン(ケイティ=プロクター)、マロニー(ロス=ブリュースター)、ほか
見たところ:シネマ・ジャック&ベティ
イギリス・フランス・ベルギー、2019年
「
私は、ダニエル=ブレイク」後、再度、引退を撤回したイギリスの名匠ケン=ローチ監督の最新作です。お正月にジャック&ベティでかかるというので母と見に行きましたが、感想は真っ二つに分かれました。
妻のアビー、16歳の息子セブ、12歳の娘ライザ・ジェーンと貸家で暮らすリッキーは独立したフランチャイズの宅配ドライバーとしてPDFと契約する。だが、そのためには介護福祉士として市内を飛び回るアビーの足、すなわち自家用車を奪わねばならなかった。また宅配の仕事もノルマをこなせなければ制裁金がリッキーを縛りつける。2人は次第にセブやライザ・ジェーンと過ごす時間を失っていく。セブは成績が良かったが、いくら働いても報われない両親の姿に勉強どころか通学する気さえ失せていってしまうが、そんな息子にかける言葉が見つからないリッキー。セブが同級生に暴力を振るったと言われて校長の呼び出しを喰らうが、リッキーは学校に駆けつけることもできなかった。リッキーはマロニーに仕事を休ませてくれと訴えるが、代理のドライバーが見つけられなければ100ポンドの罰金を払えと突っぱねられる。バラバラになっていく家族を再び1つにしたのは、リッキーの怪我だった。だが、休めば100ポンドの罰金と冷酷に告げられたリッキーは、家族の反対を押し切ってバンで配達に出かけていくのだった…。
最後、大怪我を押して出かけるリッキーで幕となりますが、ケン=ローチ監督は初心者の母は、これで家族が1つになったので大丈夫だろうと言いましたが、わしは片目も塞がり、両手は怪我のリッキーがとてもまともに運転できるとは思えず、早晩、事故に遭うのは目に見えているように思いまして、ハッピーエンドはとても期待できないだろうと思いました。
ただ、そこでリッキーや家族のその後を描かずに幕にしたのが社会的弱者に向けられる監督の優しさでもあり、けれども作中のリッキーの言動を見ていると、あまり深く考えないで生きてきた典型的な肉体労働者なんだろうなとも思ったので、それだけでは駄目なんだという警告でもあったんじゃないかとも思いました。
リッキーもアビーも家族の幸せを考えているのは本当だけれど、そのために子どもたちを犠牲にしているのも事実で、そこまでしてマイホームを手に入れなければならないのかと思いましたが、そこは日本とイギリスでは事情がまた違うようなんで何とも言えませんが。
原題の「Soryy We Missed You」が宅配業者が入れていく不在票のメッセージで、そこに「お父さんのパンツを弁償して」とすかさず書き込めるライザ・ジェーンは頭がいいなぁと感心させられるエピソードでした。
日本でもブラック・バイトとか言われて久しい昨今、安さとか便利さを求める余り、自分がそこに加担していないかと自省する毎日です。通販とか通販とか… また「ブラック」なんて言葉を悪いイメージで簡単に使っちゃうのもあかんと思います。
老いてますます鋭さと優しさの眼差しも健在なケン=ローチ監督、今作も期待どおりの素晴らしい映画をありがとうございました。
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