帚木蓬生著。新潮社刊。
こちらも読みたい本のリストに入っていたのですが、やっと読むことができました。日本の作家にはだいぶ珍しく、植民地時代の強制連行を体験した朝鮮人の男性の話です。テーマ的には以前に読んだ「
軍艦島」とかぶるところがありますが、感想を一言で言えば、甘いかなというところです。
釜山で財をなした韓国人の河時根(ハ=シグン)は、日本に残った古い知り合いの徐鎮徹(ソ=ジンチョル)からの手紙で、戦後50年間、背を向け続けてきた日本に行くため、3度目の対馬海峡越えを決意する。それは朝鮮半島がまだ日本の植民地だった時代、河時根は父に代わって強制連行され、九州の炭鉱で働かされていたのだった…。
この方の小説は初めて読みましたが、章というかパートの最初で現代について描き、その後は過去話というのは元のスタイルなのか、この小説だけに限ったことなのかなと思いました。初老にさしかかった男性が、かつて強制連行された筑豊の炭鉱痕が失われると知り、渡日を決意して3度目に海峡を越えるというのがタイトルになってるんですけど、1度目が強制連行された時で、2度目が日本人妻を伴って故郷に帰った時、でした。
ただ、最初にも書きましたとおり、河時根は強制連行されたものの生き残り、釜山で財をなし、跡を継ぐ息子たちも得て、だいぶ順風満帆なわけでして、そこら辺が登場人物のほとんどが軍艦島で殺され、やっと逃げ出した者たちもナガサキに落とされた原爆を受け、しかも朝鮮人だというので救助もされずに死んでいったなか、たった一人、生き残った主人公の伊知相(ユン=チサン)が故国に帰ろうとするところで幕を下ろした「軍艦島」に比べてしまいますと、その厚遇というか成功ぶりが著者の甘さであり、優しさであり、朝鮮の人たちになした酷いことへのせめてもの償いなんだろうなと感じたのでした。まぁ、比べるのがそもそも間違っているという話もあるかと思いますが、どっちも強制連行で炭鉱となるとネタはだいぶかぶってるものですし、「軍艦島」は映画化されたものの、日本ではDVDも発売されてない有様で見る機会も当分、なさそうなので、余計に気になってしまうのでした。
あと、帯でネタバレしてるんで書いてしまいますけど、この話、復讐譚なんですよ。河時根が復讐のために日本に渡ることを決意する、しかもそれで自分の命も終わり、みたいなことが途中で語られまして、中盤くらいから落としどころはどこだろうなぁと思って読んでました。個人的には山本三次との対決かと思ってましたが、こっちは意外とあっさりしてて、本当の目的が最後のパートで語られた時は、そっちの方が恨(ハン)が深いのかとしみじみと思いました。
もっとも、この最後の復讐譚が息子への手紙という形で語られるのはちょっと待てと言いたいです。そんな重いものは誰かに打ち明けずにいられなくて、それで日本に連れ戻された恋人との息子を選んだのでしょうけど、そんなものを息子に押しつけるなというのがわしの正直なところです。人生これからの息子にそんなもの背負わす気か、あんたは〜〜〜!!!と非難したいです。
なんで、このラストシーンで出かけてた涙が全部引っ込んだのはここだけの話、感動にはほど遠かったです。あと、熱い復讐譚とか帯で煽ってましたけど、全部、河時根の一人称で話が進むもので、そこまでの熱さは感じませんでした。まぁ、比較しようにも「モンテ・クリスト伯」読んだことないけど。長そうだから読まないけど。
それと、それほどページは割かれてなかったですけど元「従軍慰安婦」だったという嫁さんの扱いが軽いように思いました。思っただけです。
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