船戸与一著。講談社刊。
最後の読み残した船戸作品です。ただの偶然と怠惰の賜物なんですが。アメリカとスポーツがテーマの短編集ですが、意図的にそうしたわけではないようです。
収録作品は「セレクション・ブルウ」「からっ風の街」「黄金の眼」「コリア・タウン」「梟の流れ」「斑らの蝶」「ミセス・ジョーンズの死」の7作で、個人的に好きなのは「黄金の眼」でしたが、わりと後味の良くないタイプの短編ばかりです。
ちなみに扱ってるスポーツは順に野球、プロレスリング、登山、テコンドー、ライフル・シューティング、ボクシング、陸上と多岐に渡りますが、どっちかというと主題は主人公や他の登場人物の没落っぷりというか、負け犬っぷりと言った方がいい感じで、それが後味の良くないと思わせる理由になってます。
ただ、「黄金の眼」は、駄目犬と思われていた相棒のバッキーというシェパードが、無謀な登山客を装った殺人犯と対峙した主人公を最後に救うという展開が唯一、他の作品とは違って爽やかな読後感でした。まぁ、犬は死んでしまうわけなんですけど。
とか思って読んでいたら、「動物のお医者さん」にて犬ぞりレースの話がありまして、そこに出てくるやる気がやたらに飛び出たシーザーというリーダー犬(登場するたびに「オレはやるぜオレはやるぜ」という心の声とともに突っ走るハスキー犬)のことを思い出しましたが、あのマンガのなかでも別格に好きなというか、ついその口調を口走ってることがあるんで、バッキーはむしろシーザーとは正反対な性格でした。
あと、主人公は船戸小説の常で日本人ばかりなんですけど、「コリア・タウン」だけは在日になってまして、でも朝鮮語よりも日本語の方が上手いという設定でした。これは負け犬というより、建築デザインを勉強するためにアメリカに来たのに、コネを頼ったのが地元のボスで、その暴力の入り口に立たされていく主人公という感じは、むしろこの後の壮大な物語のプロローグっぽくもなかったです。ただ、船戸小説の場合は武闘派はたいがい死んじゃうんで、あんまり明るい未来はないですけど。
これで、とうとう船戸小説も全て読んでしまったことになりました。そういや、全作読み通した作家って、ほかには太宰治くらいで、わしの偏向っぷりがうかがえるような感じですけど、他の作家にはないスケールの大きさと、辺境が映し出す世界の縮図、ハードボイルドとロマンを感じさせてくれる唯一無二の作家でありました。
改めて船戸与一氏の冥福をお祈りします。ありがとうございました!
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