監督:キム・ジフン
出演:カン・ミヌ(キム・サンギョン)、カン・ジヌ(イ・ジュンギ)、パク・シネ(イ・ヨウォン)、パク・フンス(アン・ソンギ)ほか
見たところ:シネプレックス平塚
久しぶりに涙をしぼられた韓国映画。「光州事件」をご存じない? 大丈夫、たきがはもろくに知らないで行きました。ネットでちょっと情報を収集したり、パンフレットを読んで知ったぐらい。でも大丈夫、この映画はそういうバックグラウンドがわからなくても感動できます。ま、多少、演出がお涙ちょうだいだったり、アクションが過ぎたりという批判はあるかもしれませんが、そんな小難しいことを考えないで見られる映画です。光州事件を背景にした、これは愛について描いた映画なんです。恋人たちの愛、夫婦の愛、親子の愛、兄弟の愛、友人たちの愛、祖国愛、郷土愛。愛するがゆえに戒厳軍と戦った光州の名もなき人びとの映画です。わからないはずがありません。感動しないはずがありません。それから光州事件について勉強すれば良いではありませんか。知らないのなら知らないままでいないで、知れば良いではありませんか。そして、どうか30年近く前の隣の国で起こった悲劇を覚えていてください。どうか、愛のために戦った人びとを忘れないでください。
例によってネタばれしてるところがありますんで、これから見る予定の方は注意。
人のいいタクシーの運転手カン・ミヌは年の離れた高校生の弟ジヌと二人暮らし。恋人の一人もできないミヌにもシネという憧れの女性がいるが、弟が聖歌隊で仲良くしているシネになかなか告白もできない日々。同僚のインボンはそんなミヌにあの手この手のアタック作戦を授与するが、なかなか思うとおりにいかない。そんなある日、1980年5月18日、事件はミヌたちの目には突然起きたように見えたが、朴大統領の暗殺と全将軍のクーデターで韓国全土が戒厳令下に置かれ、軍は政権を掌握すべく、民主化を求める大学生の弾圧のため、全国の大学に軍を送り、ここ光州にも空軍が送られてきたのだ。コメディ映画に興じていたミヌたちの前に現れた軍は、学生ばかりか市民をも巻き込んで暴虐を繰り広げ、ミヌやシネも一度は兵士に襲われたりする。町中で繰り広げられる凄惨な光景。関わるまいとしたミヌだったが、5月21日、撤退するはずだった戒厳軍により、目前でジヌが殺され、ついに銃をとるのだった…。
キム・サンギョンさん、「殺人の追憶」でエリート刑事をやってましたが、終盤、だんだん情けなくなっていったのを彷彿とさせるような、いい人なんだけどね〜と言われそうなミヌを好演。タクシーの運転手なのに、お婆さんが困っていれば、ただで乗せてやって、しかもその運賃、自腹を切るなんてなかなかできることではありませんな。両親を早くに亡くして頭のいい弟と二人暮らし、でも兄貴はなにしろ弟が心配、友だちを殺されて、若さならではの正義感に燃える弟の身を何よりも案じる。それなのに弟が殺されてしまい、ついに銃をとり、シネといい仲になっていくのに、最後は戦うことを選んだミヌ。映画ならではのヒロイズムでしょうか。ある日、自衛隊がわしら市民を一方的に弾圧した時、目の前でたった二人きりの家族が殺された時、わしら日本人も銃をとらないとは言えないと思います。ただ、ミヌも海兵隊出身だと言ってるように、韓国の場合、男性に徴兵経験があるんすよね〜。しかもどこにあったんだよ、この銃? てな感じで市民たちが反撃。銃規制の厳しい日本ではこれはまた難しいのかも、とか思ったり。
アン・ソンギさん、いや〜、いい俳優さんだ! シネのお父さんで、ミヌの雇い主。実はただいま休職中の元空軍隊長で、将軍の覚えもめでたいという役なんだけど、一人娘の心配をしつつ、自分が市民軍を結成したことで最後まで戦うことを決意。市民軍への最後の演説ちゅうか、メッセージはなかなかなもんでしたし、ふつうのお父さんなんだけど、実は市民のなかで誰よりも戦いに習熟してるというキャラを好演。さすが「国民俳優」と言われるだけのことはありますなぁ。個人的にはパンフレットに光州事件の解説は載ってたんだけど、キャストのインタビューとかもあると嬉しかったなぁ。
イ・ジュンギさん、切れ長の目が印象的なハンサムさん。いや、ほんまに格好いいよ。ブレイクするよ!とか思って見てたら、「王の男」に出てたんですってね。そういや、この切れ長の目は覚えがあるが未見。今度、見るよ! ついでに「酔画仙」(チェ・ミンスク主演。アン・ソンギ出演)も見るよ! ソウル大学目指して勉学に励む高校生だったのに、友人が殺されたこと、持ち前の正義感なんかもあってデモ隊に参加。同級生たちを率いて学校を出ようとするのを先生たちがスクラム組んで阻止、でも2回目は先生、「この薬を塗っておけば、煙の中でも大丈夫だ」とか言って、涙ながらに塗ってくれちゃう。その気持ちに感じ入って泣き出す素直さとか、青年らしさを好演。しかも、兄貴からギターを買うとか言って金をぶんどっておきながら、「自分に必要なのはギターじゃなくて兄嫁だ」とか言って、シネに送るように十字架のついたペンダントなんかくれちゃう。死んでからそれはないぜ、と涙涙のミヌ、ちくしょう、なんていい弟なんだ。
イ・ヨウォンさん、天使のようなシネを好演。ミヌに好意を寄せられても最初は迷惑みたいだったけど、戒厳令下の非常事態のなかで、素朴だけど男らしいミヌにだんだん好感を覚えたようで、でも主要登場人物のなかで一人だけ生き残ってしまう悲劇。ラスト、主な登場人物に囲まれて、ミヌとシネの結婚式という幻の写真、シネだけ笑ってない悲しみ。悔しいよな、悲しいよな。彼女がこの後、どう生きたのか、どうか幸せになっていてほしいと思うけど、これだけ大切な人を失って、彼女に笑顔が戻る日はあるのだろうか。
盲目の老母役で「クワイエット・ファミリー」の肝っ玉母ちゃん役のナ・ムニさん好演。「うちの息子は鼻の高いいい男なんだよ。友だちなのにわからないのかい」という台詞、息子の顔が兵士に殴られて変わってしまっているのだとわかると、同じ韓国人同士、残酷なことができるのだと、日本兵の例なんかも思い出して意味深いシーンだと思う。軍隊は市民を守らない。それは万国共通なんじゃなかろうかな。
ミヌの同僚、インボン役のパク・チョルミンさん、「力道山」にも出てたそうですが、あれだな、力道山と同郷の友人だ。途中で韓国帰っちゃったんだよな〜という役だったな。なにしろお調子者で、5・18の事件の時も最前列にいたのに生き残っちゃうし、悪運強いよな〜と思って見てたら、同じお調子者のヨンデと仲良くなっちゃって、ムードメーカーとして活躍してたのに、実は奥さんも息子(赤ん坊)もいたことが判明、1回はうちに帰ったものの、結局、市民軍に戻っちゃってさ。涙ながらに赤ん坊抱き上げてるシーンとか泣けるよな〜。もう、一度はうちに帰らせたものの、奥さんも二度目は止められなくて涙こらえてるし。生き延びる者も必要なのだと思った。だから、インボンがうちに帰ってもいいのだと思ってた。でも、それでも同じ市民同士、戻ってきてしまったインボンは格好いいキャラだった。
タイトルの「5・18」は光州事件の始まった5月18日。では終わりはいつかというと、5月27日だったりする。その日、日本で光州事件に関心も持たず、自分の誕生日のことしか考えていなかったわし、そう思うと、この光州事件が無縁なものじゃないって思えるんだ。
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