布施柑治著。岩波新書刊。
サブタイトルが「布施辰治」とあるように、
朴烈裁判で弁護人となった布施辰治弁護士について、息子が書いた本です。途中まで「
首」の正木ひろし弁護士と勘違いしていましたが、途中で朴烈の弁護をしたことが出てきたんで修正しました。考えてみたら、1944年に首なし事件に関わってた正木弁護士は関東大震災直後の朴烈裁判とは無縁でしたネ。
布施弁護士が死刑廃止論の理由に
「
判決は被告のなっとくするものでなければ道徳的効果がない。人間は自分が死刑になることをなっとくできないのが原則であるから刑罰として死刑は廃止されるべきだ」
というのは、厳罰による抑止論が言われる死刑への賛成論を聞いていると、まだ納得できないでもないなぁと思いましたが、逆に自分を死刑にしろという犯人に対し、今度は逆効果になるのか、それもしょせんは口先だけの威勢だと思ってて、心のなかでは人は皆、死にたがらないものだと思っているのかは不明でしたが…
まぁ、トルストイの弟子を自称するだけあって、いろいろとあるんでしょうけど。
あと「
密偵」で主人公のジョンチュルが警官でしたが、そのモデルが実在していたみたいで、その義烈団事件の弁護にも布施弁護士が関わっていて、この人はどっかの自称「
朝鮮の友」みたいな似非じゃなくて、本当に朝鮮や台湾のことを案じていたのだろうなぁと思いました。だからって日本のしたことが責められてはいけないとか言いませんけどね!
また、たきがはが親近感を覚えるギロチン団の弁護にも立ったと知ると、布施弁護士が感銘を受けたというこれらテロリストたちの心情、「
悲しい涙に泣く多くの人のために彼らをしいたげた奴らに一撃を加える」は、わしも深く共感するところがあるだけに、そうだろうと頷いたところであります。
それと金子文子が自殺したことは「金子文子と朴烈」にも描かれてましたが、その遺骨を引き取って朝鮮の朴家の墓地に埋葬するよう手続きしたのも布施弁護士だと知ると、韓国行った時に寄ってこなかったのをしみじみと後悔するのでした… orz
この本の半分は、そういうわけで布施弁護士の誕生から死までなんですが、後半は布施弁護士が弁護士を懲戒免職された時の裁判を綴っていて、日本が戦争に突入せんとしていたあの時代の司法の無茶苦茶さと、今の時代の共通点を見出して暗澹たる気持ちにさせられます。
岩波新書らしく、コンパクトにまとまった名著です。そういや、「昭和史」が新装版で出ていたけど欲しいなぁ…
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