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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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あの人に逢えるまで

監督:カン=ジェギュ
出演:ヨニ(ムン=チェウォン)、ミヌ(コ=ス)、?(ソン=スク)、ほか
韓国、2014年

シュリ」「ブラザーフッド」でおなじみの、たきがはが大好きなカン=ジェギュ監督です。30分足らずと短い映画でしたが、監督の叙情的な一面を知って、大収穫でしたvv
こうなったら、見損ねた「初恋を探して〜チャンス商会」も観たい。観たい〜v

今朝もアメリカに渡ったサラの電話で目を覚ますヨニ。玄関先を掃除していれば、派手な頭の美容院勤めの夫婦がヨニに声をかけていく。ヨニは「あの人」の帰りを待って市場へ行き、あの人の好きなボラのスープをこしらえるけれど、あの人は今日も帰らない。ある日、役所の人がやってきて、あの人=ミヌの生存を伝え、会いに行こうと言う。ヨニはお弁当をこしらえてバスに乗り込むけれど、ヨニ以外にはお年寄りが大勢乗っているばかりだ。けれど臨津江(イムジンガン)の橋の上で、ヨニたちを乗せたバスは足止めを喰らってしまう。朝鮮半島情勢が緊迫化しているため、今日の離散家族の面会は中止となってしまったのだ。バスに乗せられたヨニは、せめて持ってきた弁当をあの人に渡してほしいと願うが、軍人たちは受け取ろうとはしなかった。ミヌが86歳の老人になっていたように、ヨニもまた、とうに老いていたのだった…。

という話で、ヨニを演ずるムン=チェウォンさんは可愛らしい美人さんですが、訳ありの表情を時々浮かべるので、どういう事情かなと思います。ヨニさんの家には写真が何枚か飾られていまして、ヨニさんと男性が一緒に写っているのがあり、これがミヌさん、つまり、ヨニさんが待ちわびているあの人なわけです。しかし、その写真はなぜか白黒で、舞台が現代のソウルであるのははっきりしており(町の遠景に高層ビルが建ち並んでいるので)、同時にカラーの写真で老婆とおばちゃんが写った写真も何枚か飾られていますので、この老婆やおばちゃんとの関係は?となるわけです。
その時、一瞬だけ、ヨニさんの姿が老婆に変わることで、だいたいのネタは読めてしまいましたが、個人的にはこのカットなくして、最後のバスのシーンまで引っ張っても良かったんじゃないかと思いましたが、30分の映画ですから、あんまり引っ張りたくなかったのかもしれません。謎解きが主体の映画ではありませんので。

市場で買い物をするヨニさん。
料理をこしらえ、あの人の帰りを待つヨニさん。
その合間合間に、老婆たちと一緒にエアロビクスとは言えないまでも身体を動かす体操をしているシーンとか、サラさんの会話とか挟まれて、さっきの、ヨニさんが実は老婆だったこともあり、何らかの事情でヨニさんの精神的な時間が止まっているんだろうなと推測できます。となると、地球上で唯一、分断されている朝鮮半島の事情を鑑みれば、ヨニさんは離散家族なんだろうなという結論に至るのはそう難しいことではないわけです。
そして決定的なのがヨニさんを迎えに来る役所の持ってきた書類です。見るからに若々しい、けれど本当は老婆らしいヨニさんの待ち人であるミヌさんが「86歳」と書かれてるわけです。

しかし、本作は2014年の作ですから、朝鮮半島はまだ現在ほど緊迫した状況にはなっていなかったはずですが、ヨニさんたちを乗せたバスは「朝鮮半島の緊迫した情勢のため」に離散家族の面会に行ったのに、国境を越える前に中止にされてしまうわけです。

現実にもあり得そうな展開ですし、現に、いろいろな事情で涙を呑まされた方々も大勢いたのでしょう。
そして、ここら辺から涙腺を絞りにかかってこられたわけなんですが、若々しい姿と老婆に交互に変わるヨニさんがミヌさんの好物を詰めたのであろうお重だけでも渡してもらえないかと交渉しようとします。思わず閉めちゃった扉を開けてしまうバスの運転手さん。決して表情を変えず、決してお重を受け取ることもない軍人たち。やがて、ヨニさんのせっかくのお弁当は落ちて、ばらけてしまいました。

ソウルに戻ったヨニさんとサラさんの会話で、サラさんがミヌさんの娘ではなく、冒頭で「愛のない結婚から生まれた」と自虐的に言っていたのがヨニさんの2回目の結婚相手がサラさんの父親だったことがわかり、サラさんは父親のことを「一生、あなたに片思いをしていた」と、大人になって初めて(本人談)「お母さん」と呼びかけるのです。つまり、おばちゃんと写った老婆は今のヨニさんとサラさんであり、それが現実だったということです。

けれども、ラストシーンで、やっぱり若々しいヨニさんは、これまた若々しいミヌさんを見送り、お弁当を持たせます。
その時、背景が一変し、高層ビルの建ち並んでいたソウルの町並みは、わしの勝手な推測ですが、たぶん合ってると思いますが、朝鮮戦争前夜のソウル、日本の植民地から解放された後のソウルに変わるのです。
ヨニさんの時間は、きっとその時から止まっているのでしょう。ミヌさんが若々しいのもヨニさんが若いのも別れた時の記憶まんまなのでしょう。そして、その時からずっと、ヨニさんはミヌさんと暮らしていた韓屋に住んでいるのです。ずっとミヌさんの帰りを待って、「あの人に逢えるまで」。

これだけの素材を30分のなかに収めたカン=ジェギュ監督の力量と、全編を貫く叙情、ヨニさんとミヌさんの思いと愛情、サラさんとその父親(ヨニさんちには写真も飾られていないのですが)の思いに涙が止まりませんでした。
と同時に、朝鮮半島がこのような事態に陥り、いまもなお解決していないことに、その責任の大半を負う日本人として身が縮む思いでしたし、アメリカの尻馬に乗っかっていたずらに朝鮮民主主義人民共和国を煽る安倍の態度に腹立たしさを覚えると同時に申し訳なく思った次第です。

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