監督:ケン=ローチ
脚本:ポール=ラヴァティ
出演:ダニエル=ブレイク(デイヴ=ジョーンズ)、ケイティ(ヘイリー=スクワイアーズ)、デイジー(ブリアナ=シャン)、ディラン(ディラン・フィリップ=マキアナン)、チャイナ(ケマ=シカズウェ)、ジョー()、アン(ケイト=ラッター)、ほか
見たところ:横浜シネマジャック&ベティ
イギリス・フランス・ベルギー、2016年
たきがは大好き監督のお一人、ケン=ローチさんの最新作です。前作「
ジミー、野を駆ける伝説」で引退宣言されてたとは知らんかった…
心臓が悪くて主治医に就業を止められている初老の男性ダニエル=ブレイクは、国からの雇用支援手当てを止められてしまう。求職者手当てを申請するよう言われて職業安定所を訪れたダニエルは、申し込みがオンラインのみと言われて途方にくれる。その時、若い女性の悲痛な声が響き渡る。彼女はケイティ、ロンドンからニューカッスルに来たばかりで約束の時間に遅刻したために給付金を受け取れないと言われたのだ。2人の子どもを連れた彼女に同情したダニエルは加勢してやるが、安定所からケイティとともに追い出されてしまう。買い物につき合い、荷物を運ぶダニエルにケイティは事情を打ち明ける。ロンドンでは大家に雨漏りがすると言ったために追い出され、ホームレスの施設で2年暮らした。だが一部屋での暮らしに限界を覚えて、役所から紹介されたのが知り合いもないニューカッスルの一軒屋だったのだ。ケイティ母子とダニエルのあいだに友情が生まれるが、彼らに突きつけられるのは矛盾した制度と容赦ない現実だった…。
冒頭、ダニエルと再審査に携わるという医療の専門家との会話が映像もないながらスパイスが効いてまして、会話だけで何かこの制度、おかしいよね?という疑問を提示してきます。そのおかしさはクライマックスまで続きまして、心臓が悪くて仕事ができないのになぜか「就業可能」とか言われちゃうダニエルの苦しさ、求職者手当てをもらうために働けないのに求職活動を行わなければならない、しかも「スマホで証拠を撮れ」とか言われちゃう矛盾、40年間も大工として実直に働いてきて、精神に異常を来したという妻の面倒を最期まで診てきたダニエルにとって、そういう矛盾というのはとても理解できないものだったでしょう。
だから、クライマックスで職安の外壁に「私は、ダニエル=ブレイク」とスプレーで描いた。その怒りをどこにぶつければいいのか、どこに持っていけばいいのか、そんな形でしか解放できなかったダニエルは、イギリスだけじゃなくてどこの国にも大勢いるのだと思います。
お金に困ったケイティが通信制の大学に行きたいと言っていたのに売春ぽいのをしなければならなかったこともありそうな話。
そんななか、ケイティにとって心の支えであったろうデイジーとディランの2人の子どもたちが、最後にはダニエルにとっても支えとなり、張りとなっていたのが良かったですね。
ラスト、ダニエルの声がようやく届いたかと思われる間もなく、彼は帰らぬ人となってしまいます。その葬儀(「午前9時の葬儀は貧乏人の葬儀と言われるほど安い」というケイティの台詞がまた泣ける)でケイティが読み上げたダニエルの遺言とも言えるメッセージが突き刺さりました。
傑作です。
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