韓水山著。川村湊監訳。安岡明子、川西亜子共訳。作品社刊。全2巻。
軍艦島(長崎県・端島)の海中炭鉱に強制連行された朝鮮人たちを描いた群像劇。
メインの人物が何人かいて、場合によっては軍艦島に来ることになった経緯も丁寧に語られます。
伊知相(ユン=チサン)はその家族、両親、妻、兄夫婦なども語られて、実質的な主人公って感じですが、最初のうちはおとなしい印象が強く、積極的に話を牽引する人物には見えません。ただ、発つ直前に妻の妊娠が発覚、だんだん頼もしさを見せていくようになります。
李明国(イ=ミョングク)はこの物語の最初から軍艦島にいますが初っぱなで仲の良かった3人の徴用工を失っており、そのうちの1人、張泰福(チャン=テボク)の息子・吉男(キルナム)は父を探しに日本に来ていますが、地獄島とも呼ばれる軍艦島に人捜しに渡るのは容易なことではない上、あまり親切な人物に巡り会ってもいないので、いいように使われている感じです。ただ、その六本指という人物は伊知相が軍艦島で親友となった崔又碩(チェ=ウソク)の親戚でもあるそうなので、吉男と又碩が出会うのは予想されます。
そして又碩の初恋の女性・錦禾(クムファ)。軍艦島の遊郭に勤める娼婦ですが、しょっちゅう酔っ払っています。彼女の半生、どうして軍艦島まで来たのかという生い立ちは下巻で語られますが、モノローグや又碩と話しているところを見るとけっこう可愛い女性で、でも又碩の脱走の邪魔になるというので明国に同行を止められてしまうあたり、薄幸な最期が予想されてしまいます。
他にも知相の妻の父である崔治圭(チェ=ジギュ)も魅力的で、アン=ソンギさんなんかキャスティングしたらいいなぁと思って読んでました。
張泰福ら3人の脱走に加わらなかった明国が知相らと知り合うことで脱走を決意するのに事故で片足を失ってしまい、それでも知相、又碩、そしてもう一人の人物が脱走計画を固めたところで下巻に続きます。
「火山島」では続編の「地底の太陽」も含めて誰も幸せになれなかったので、せめてこの小説では無事に脱走して故郷に戻ってほしいと願うのは、かつて朝鮮を踏みにじった日本人には身勝手な話かもしれません。
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