監督・脚色・キャラクターデザイン・作曲:シルヴァン=ショメ
脚本:ジャック=タチ
見たところ:TOHOシネマズ六本木ヒルズ
久々に映画を見に行きました。わけわかめだった「
白いリボン」以来なので、約二ヶ月ぶりですか。なにしろ脚本が「
ぼくの伯父さん」のジャック=タチ氏だというので、ままんに誘われてほいほいと行きました。期待どおりと言いますか、期待以上と言いますか、たきがはの中でジャック=タチ氏は大好きな監督に浮上したのであります。
公開中の映画につき、続きは以下へ。
売れない手品師のタチシェフは、スコットランド人に誘われたことで、パリからスコットランドの離島に渡り、拍手喝采を浴びる。宿屋で働く少女アリスは、タチシェフに靴をもらったりしたことで彼を魔法使いと思い込み、どさ廻りを続けるタチシェフとともにエジンバラへ同行する。アリスに生き別れた娘の面影を見出したタチシェフは、売れない手品をしたり、アルバイトをしながらアリスの願いをかなえてやろうとするが、ある日、彼女は近所の若者と知り合い、恋をした。アリスの成長を知ったタチシェフは、彼女のもとを去る決意をする…。
実は話の舞台が1950年代だとか、タチシェフ氏がアリスに娘の面影を見出すとか、フランス人のタチシェフ氏とスコットランド人のアリスがほとんど言葉が通じていないとか、全部、パンフレットを読んで知りました。
だから、劇中でビートルズみたいなロックグループが女の子たちに馬鹿受けしているんだとか、タチシェフ氏が壁に貼っていたのは娘の幼い頃の写真なんだとか、アリスの言葉が何言ってんだか字幕も出ないとか、全部、そういう理由があったわけです。
でも、そういう詳細なところがわからないとつまらないかと言いますと、これが全く逆で、タチシェフ氏が売れない手品師であることはすでに冒頭からわかっていますし、その理由にアイドルっぽいロックグループがいることや、タチシェフ氏の同業とも言える腹話術師やピエロも食うに困り、エジンバラの安宿で互いに支え合ったり、腹話術師さんは人形を売ったりしています。たぶん、ロックグループは、ビートルズがモデルなんだと思うんですけど。その刹那的な音楽というか、存在は、ゆっくりしたペースの手品や腹話術やピエロを押しのけて、時代を変えていこうとしている、というのは見ているうちにわかってくるわけですよ。
さらにタチシェフ氏は初老にさしかかった手品師で、一方のアリスはタチシェフ氏を魔法使いと思い込んだり、ウィンドウの華やかなコートや靴に憧れたりするあたり、いかにもな田舎娘であり、彼女の願うままに靴を買ってやり、コートを与え、その金を得るためにアルバイトまでしてしまうタチシェフ氏の涙ぐましい働きぶりは、娘がいるとはわからないまでも、何かあるのだなと思わせる尽くし方じゃないかと思うわけです。
そして、二人の会話がほとんど成り立っていないのも、映像で語ってしまう雄弁さもありまして、全然不自由に感じず、むしろ、全てを台詞とかナレーションで語ってしまおうとしない分、わしとしてはそういう雄弁すぎる映画には飽き飽きしてるところもありますんで、却って好印象で、実はそういうことだったのね〜と気づかされるのもまた楽しいのでした。
タチシェフ氏は最後、長年の相棒だったウサギ(こいつが凶暴ですぐ噛みつくのですが、なんかいないと寂しい)をエジンバラの郊外に逃がし(飼われていたウサギだけど、きっとすぐに野生化できるタフさがあります)、アリスの前から姿を消します。その哀愁あふれる姿には、彼の幸せを祈らずにいられず、とても優しい気持ちにしてくれるのでした。
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