監督:ヨン=サンホ
出演:ソグ(コン=ユ)、スアン(キム=スアン)、ソンギョン(チョン=ユミ)、サンファ(マ=ドンソク)、ヨングク(チェ=ウシク)、ジニ(アン=ソヒ)、ヨンソク(キム=ウィソン)、ホームレスの男(チェ=グイファ)、ほか
見たところ:109湘南
韓国、2016年
原題は「釜山行」です。邦題は例によって酷いですが、せめて「新感染」だけのがましだったような… 配給会社のセンスが疑われますネ。
ファンドマネージャーとして働くソグは家庭を顧みない自己中心的な男で、妻には釜山に逃げられ、娘のスアンとも疎遠だ。しかもスアンがどうしても母に会いに釜山に行きたいと言い出したもので、午後には帰るつもりで早朝の釜山行のKTXに乗り込む。しかし、発車間際に車内に駆け込んだ女のために、ソグたちは恐ろしい運命に巻き込まれる。それは、かつてソグが証券のために救ったバイオ会社から漏れ出した細菌で、韓国全土を感染させてゆく。最初のうちは暴動と発表していた政府だったが、一般市民はネットにあげられた動画によって、人を襲う感染者の実態に気づき、パニックに陥っていく。ソグたちを乗せたKTXには、妊娠中のソンギョンとその夫のサンファ、野球の試合に行くエースのソングクと応援団長を自称するジニ、バス会社の常務ヨンソクらも乗っていたが、感染に歯止めがかからず、KTXは命令でテジョンに停車するが、そこはすでに感染者の巣窟と化していた。KTXは再び釜山に向かって発車するが…。
というわけで、ゾンビ映画かと釜山では敬遠して観なかったのですが、観てみたらさにあらず、ゾンビ映画の形をとった、極限状態の人間のエゴと愛の映画でした。すまんかった。
コン=ユさんは「
密偵」でおなじみ。クールなレジスタンスを演じた「密偵」に近く、わりとクールな印象ですが、あっちでは格好良く写りましたが、こちらでは最初は駄目パパでした。しかも自分勝手なところを娘にまで責められて、これはどうしても妻ラブ全開のサンファの方に票が集まるわいと。ただ、スアンとソンギョン、おばあちゃん姉とホームレスのおっさんを助けるために4両先まで行くかと覚悟を決めてからはいい顔になりまして、奮闘しましたね。しかも、ソグ以上にエゴをむき出しにしちゃったヨンソクというおっさんのせいでサンファたちが生存者が集まった先頭車両に入れてもらえず、感染者にとうとうドアを破られた時も、サンファに「ソンギョンを頼む」と言われるまでには頑張りました。まぁ、あの状況ではほかに頼める人がいなかったとも言えますが。しかし、お父さんは頑張った。東テグ駅で線路がふさがれ、運転士のアナウンスにより、ほかの電車に移動する時もスアンとソンギョンを守って頑張りました。それだけに、やっと感染者から逃れて釜山に行けるかもと希望が出た時に、とうとう感染しちゃったヨンソクに噛まれたために、最愛の娘を襲う前に身を投げるソグのシーンはシルエットだけの演出でしたが、逆にそれが良かったです。
マ=ドンソクさんは見た目まんまのキャラで、武闘派だけど愛妻家というのが登場シーンから全開。トイレにこもって不機嫌な嫁を気遣う辺りなんか、不器用だけど優しいというキャラが出てて、好感度抜群でした。心配なのはこの先、これ以外の演技も見せてほしいなぁというところですが、そこは相変わらず絶好調の韓国映画界のことですから、揉まれて、いい俳優さんになっていくでしょう。主役も脇役もできるという器用さも良い。次作にも期待がかかります。
ソンギョンさんは妊婦という困難な状況でしたが頑張りました。しかし、東テグ駅でよー走った。間に合って良かった。妊婦さんには無理なんじゃないかと思ったけどお母さん頑張った。登場シーンこそマタニティブルーのためかトイレに籠もって旦那に当たり散らすって感じもしましたが、大人のエゴに泣きじゃくるスアンを抱きしめてあげたり、最後はスアンと数少ない生き残り組になったりと、母は強し!を地でいった感じが良かったです。スアンのお母さん(ソグの嫁)が生き残ったかどうかわかりませんが、似たような境遇同士、頑張って生きていったもらいたいものです。
スアンちゃん、最初のうちこそ、表情が硬い娘さんでしたが、それも仕方がない。大好きなお母さんとは離ればなれ、おばあちゃんでは物足りぬ、父親は家庭を顧みない。頑張って覚えた歌も父親に聴かせるためとあっては途中で唄えなくなるのも仕方ないじゃない。でも、テジョン駅で自分たちだけ助かろうとする父親を諫めたり、ヨンソクらの大人のエゴむき出しに泣き出したり、徐々に表情が柔らかくなり、最後は涙涙の父との別れは体当たりの熱演が良かったですね。最後、彼女の唄う「アロハ・オエ」がスアンとソンギョンを生存者と認めさせたという落ちもなかなか。すでに20本以上の映画に出演してる人気子役だそうで、将来が楽しみな女優さんです。
まとめて書いちゃうけど、野球部カップルも頑張りました。ソンギョンたちを助けるために、自分には関係ないのにサンファとソグと一緒に行っちゃうヨングクの侠気も、ジニの生意気さとけなげさも良かったです。特に、冒頭ではぎこちなかった(ジニが押しかけ女房的のため)だけに、最後まで生き延びてほしかったんですが、東テグ駅でとうとうジニが襲われてしまい、ヨングクがジニに噛まれて感染というのはせつないものがありました。同じ野球部員が感染者になっても、やっぱり殴れなかったヨングクの優しさが良かっただけに最後まで生き延びてほしかったなぁ。
そして、特に悪役がいないなかで、人間のエゴを代表しちゃった、させられちゃったヨンソクさん、バス会社の常務だってんで威張りちらしてまして、いや、確かに韓国でバス会社は大事だし、全土を結ぶ動脈だけど、KTXは鉄道会社なんだから、そこでまででかい顔してなくてもって感じでしたが、これは嫌な奴を増やすと人間ドラマが複雑になって時間がかかるから、敢えて、ここに集中させたんでしょうと邪推。威張る、サンファやソグたちを感染者扱い、さらに閉じ込め、しかしドアが破られて逆にピンチになるも乗務員と2人でトイレに籠もって生き延び、今度は東テグ駅で乗り換えるために乗務員を囮にして自分だけ列車に向かうも足が遅くて感染者に追いつかれ、助けに来てくれた運転手を犠牲にして生き延びるも、結局、感染しちゃって、最後はソグに噛み付いて、自分は列車から落とされるというそんじょそこらの悪役も真っ青の悪っぷりでした。いやいや、ここまで憎まれ役にしなくても。最後、ちょっと子どもに戻ったような言動が救いでしたか。
特に解決らしい解決も見せずに意外なところで落ちましたが、たぶん、この映画の続編は作らないだろうと思いました。なので、成長したスアンとソヨン(サンファとソンギョンの娘。死の間際にサンファが命名)が世界的なパンデミック(ゾンビ映画のくくりになってますが、大元は細菌だそうです)にイケメン軍人の彼氏と立ち向かうという続編は、わしが頭の中で安直にこしらえたものですので、ありません(爆
ちなみに原題で最終目的地にもなってる釜山は朝鮮戦争の時も、押し寄せる人民共和国軍相手に落ちなかった唯一の大きな町なので、そこは確実に意識してるだろうと思いました。
たんぽこ通信 映画五十音リスト
[0回]