監督:ハ二・アブ・アサド
出演:サイード(カイス=ネシフ)、ハーレド(アリ=スリマン)、スーハ(ルブナ=アザバル)、ジャマール(アメル=レヘル)、サイードの母(ヒアム=アッバス)、アブ=カレム(アシュラフ・バルフム)、ほか
フランス・ドイツ・オランダ・パレスチナ、2005年
TLで渋谷のアップリンクという映画館が「オマールの壁」という映画を
ネットで無料で今月いっぱい公開している(正確には無料ではなくて無料で見られるコード付)というので見に行ったら、公開している映画がもう一本ありまして、そちらを見たのでした。「オマールの壁」は見られたら明日見よう…
イスラエルが占領するヨルダン川西岸の町ナブルスに英雄の娘でモロッコで育ったスーハが帰ってきた。彼女はサイードに思いを寄せていたが、彼と親友のハーレドは過激派による自爆テロの実行犯に選ばれてしまう。入植者のように髭を剃り、テルアビブで自爆するはずだったが、鉄条網を越えたところでイスラエル軍に見つかってしまい、しかもサイードはハーレドや指南役のジャマールたちとはぐれてしまう。サイードの裏切りを案じる指導者のアブ=カレムやジャマールたち、サイードを信じるハーレド、計画は成功するのだろうか…。
実はサイードには自爆テロをしなければならない理由があるのですが、それが明かされるまでがけっこう長いです。全体の2/3ぐらいかかった。なので、開始30分くらいで計画が失敗してしまってから、サイードとハーレドたちの様子が交互に描かれるのは緊張感もある(サイードは爆弾を身体に巻いたままだから)んですが、突っ込みどころも多かったり。そもそも指導者のアブ=カレムがもったいぶって「綿密な計画だ」と言うわりに、実際にテルアビブまでの案内人がその場で雇ったイスラエル人で、このために失敗する辺り、どこら辺が「綿密な計画」なのか小一時間くらい問い詰めたい。ほんとに問い詰めたい。
しかも、イスラエル軍に追われたとはいえ、鉄条網はそうそう越えてこないのに、サイードを置き去りにしてさっさとジャマールたちが逃げちゃったり、そもそも計画を立てたアブ=カレムやジャマールたちは安全なところにいて自爆しなかったりと全編に閉塞感が漂ってました。
あと、せっかくやる気になって実行犯が残すビデオ・メッセージを撮っているのに、そうと知らずにハーレドがお母さんに渡されたサンドイッチをむしゃむしゃ食べ出したり、もうジャマールの緊張感のなさというか、自分は安全という感じが台無しです。まぁ、こんなものなんでしょうが。
ハーレドはスーハに説得されて自爆を諦めてしまいますが、サイードはそんなハーレドをナブルスに帰し、一人、テルアビブの町でバスに乗って、画面が真っ白になったところでエンド。実はサイードの父が、彼が10歳の時に密告者として処刑された過去があり、どうもその負い目をずっと負ってきたサイードは、ここで帰るわけにはいかず、自分は父親とは違うのだということを明かすためにも自爆テロをしなければならなかったのでした。たぶん。
わし的にはサイードとハーレドが冒頭で働いていた自動車修理工場の社長みたいな人は、ハーレドを首にしちゃいましたけど、サイードには小言も言いつつ、それなりに気を遣ってくれていて、腕前も買っている感じに見えたので、サイードの周囲に父親のことを誹るような大人ばかりではなかったろうに、どう見ても、肝心のジャマールが、何かことある毎に「君は父親とは違うだろう」とかねちねち言ってそうな感じで(偏見です)、もちろんアブ=カレムも黙ってたはずがなく(偏見)、そんな大人たちに囲まれて育ったサイードは知らず知らずのうちに父の分まで自分は勇ましく死んでいくのだと思い込んでいたのではないかと思えて、髭を剃る前はけっこう老けて見えた(中東圏は基本そう)サイードやハーレドも、髭を剃って坊主頭にしたら、まだ20歳前後ぐらいだったんじゃないかと思えて、そんな若者たちを自爆テロに駆り立てて、年寄りが残るようなパレスチナの未来が暗澹として見えてしまいました。この方法を続けていって、いずれ勝った時には若者は一人も残っていないような… そんな手を取るしかできないパレスチナと、そこまで追い込んでいるイスラエルとアメリカと日本も含めた西側諸国の罪深さと思って、ラストの白くなったのが、周りに幸せそうに休暇を取ったイスラエル兵たちがいるなかで、とうとうサイードが爆発させちゃったんだと思って呆然とすることしかできませんでした。
タイトルの「パラダイス・ナウ」はセンスのかけらも感じられない原題まんまの酷いタイトルですが、ハーレドが途中まで言っていた「頭の中の天国」というやつなのかなぁと思いましたけど、それは阿片というんやで…
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