監督:パク=フンジョン
出演:パク=ジェヒョク(チャン=ドンゴン)、チェ=イド(キム=ミョンミン)、リ=デボム(パク=ヒスン)、キム=グァンイル(イ=ジョンソク)、ポール=グレイ(ピーター=ストーメア)、ほか
見たところ:桜坂劇場
韓国、2017年
何かやってないかな〜と桜坂劇場のサイトをチェックしていたら、こちらが今週末までとあったので、それっと行ってきました。全然、予備知識も仕入れずに行きましたが、なかなかおもしろかったです。
韓国国家情報院とアメリカCIAの企てにより、北から亡命させられたエリート高官の息子キム=グァンイルが、ソウルを騒がせる連続婦女暴行殺人事件の有力な容疑者として浮上する。前任者が自殺したことで捜査本部のトップに返り咲いたチェ警視は、グァンイルが犯人であることを確信し、追っていくが、国家情報院の保護下にあるグァンイルは再三、チェの包囲網をくぐり抜けてしまう。CIAの捜査官ポール=グレイは、グァンイルが知っているといわれる北の隠し口座の番号を狙っていたが、そこに朝鮮民主主義人民共和国・保安省の工作員リ=デボムが現れ、事態は彼らの思いも寄らぬ方向へ進んでいくのだった…。
初っぱなが2013年の香港、何でこんな半端な時期?と思っていると、それは最後の方で明らかに。粛清されたという共和国高官を利用してしまう辺り、抜け目がありません(まぁ、その事実もいろいろ言われているんですが…)。
そして、それぞれの立場からグァンイルに絡む4人の男たちが、CIAはまぁ置いておいて、主に南北朝鮮の3人がいろいろな思惑があって、共感できる人物を見つけたら、この映画、はまると思います。
グァンイルを保護しなければならない情報院(KCIAのことかな?)のパク=ジェヒョクは、まさに中間管理職って感じでがちがちの役人ですが、彼が映画の冒頭でがらっと雰囲気を変えてワイルドな風貌になっているところを見ると、いつまでも小役人ではいますまい。
暴力が問題視されているチェ=イド警視は、裏返せば、それだけ正義感が強いということでもあります。確かに強引な捜査方法ではありますが、前任者の自殺で警察の上部は連続婦女暴行殺人事件の解決に躍起になっているので、そこは目をつぶれるレベル。むしろ、チェ警視がいちばん共感しやすい人物でした。
そして、いちばん最初(じゃないかもしれないけど画面上では)にグァンイルが起こした事件からグァンイルを追って脱北までした工作員のリ=デボム。しかも途中で、グァンイルを追ったことで逆に報復され、部下を失い、自身も傷を負ったことを明かします(相手はチェ警視)。ある意味、チェ警視以上にやりたい放題で自由に動いてますが、それもこれもグァンイルを捕まえるため、なぜならグァンイルはリの部下だけでなく、共和国で12人も婦女暴行殺人を起こした稀代の殺人狂なのですから。その最初の事件はいたいけな女子学生が襲われ、しかも一家も惨殺されたという悪質なものを観客は見せられているのです。どうしてリ=デボムの行動を批判できるでしょう。
けれど彼らはいずれも国家機関に所属する、いわば、国の狗です。だから自分の正義感だけで動いても、上司がそれを認めるとは限らない。あるいは時には反対もされる。自分が消されるかもしれない。パク=ジェヒョクが不本意ながらグァンイルを保護しなければならなかったように。チェ警視が決定的な証拠を見つけてグァンイルを追いつめても、捜査本部が閉鎖され、協力的だった検事に見捨てられ、やむなくグァンイルをジェヒョクに渡さなければならなかったように。12人(韓国でさらに7人、香港でも2人)も殺していながら、父親が最高幹部の部下であったために見逃されてきたグァンイルが、その幹部が失脚したために、今度こそ、北で裁けると最後に捕えたリ=デボムが、国のトップが代替わりすることで最高幹部が復活、当然、グァンイルの父親も復職、捕えたはず、今度こそ裁けるはずのグァンイルに撃ち殺されたように。
そんな過去が描かれ、グァンイルを追った2人は表舞台から消えた。過去とは180度も変わったようなワイルドな風貌になった香港に現れたジェヒョクは、あの時、自己保身に走ったから生き延びたとも言えます。少なくとも彼はグァンイルに目をつけられ、殺されずに済んだ。だからこそ、最後、グァンイルにとどめを刺すのはジェヒョクの役割になったのかもしれません。
そんな狂気と紙一重の男たちに比べて、CIAのポールは俗人です。やってることは国家レベルの悪巧み(グァンイルの協力で共和国の中国にある隠し口座から大金を奪おうとしている)ですが、人物はいたって平凡な感じです。
そして、そんな男たちを時に翻弄し、嘲笑い、見下し、命令することに慣れた稀代の殺人鬼(判明しているだけで21人は殺してるわけですから)キム=グァンイル。正直言って、画面を見ていて、グァンイルが登場して、薄笑いを浮かべるたびに、わしは目を逸らしたくなりました。それぐらい、えぐい。年齢制限ないのが不思議なくらいです。いや、そういう話じゃなくて、それだけグァンイルの存在は徹底した悪でした。上にあげた3人の男たちが善ではない。ただ、グァンイルが悪、それも絶対悪というのだけは決まっているように思います。その悪に比べれば、どんな悪も霞みそうな、凄まじい悪です。それを演じたのが29歳の若手というところに韓国映画界の豊潤さを感じました。ハンサムなだけに、余計えぐい。薄笑いを浮かべて、被害者を絞殺する。捕まえられても証拠をあげられても薄笑いを浮かべてみせる。ハンサムなイ=ジョンソクが演ずると、その分、邪悪さが増した感じです。よくこんなキャストしたな。よくこんな役を引き受けたなと感心します。
公式サイト行ってごらんなさい。まるでアイドルですよ。でも、この若さでこんな悪役を演じきった彼は、やがて、凄い俳優になるんじゃないかと思います。見ていた時はそんなことは考えもせず、グァンイルが最後に殺された時はすっきりしちゃいましたけど。
知った俳優さんはチャン=ドンゴンさん(「
友へ 〜チング〜」見た)ぐらいしかいませんでしたが、出演作見てたら、パク=ヒスンさん(リ=デボム)さんが「
密偵」出てまして、冒頭で日本の憲兵に追われたジャンオク役でした。ハシモトじゃなくて良かった…
ちなみにタイトルの「V.I.P.」は、当然、グァンイルを指すんですが、これは90年代くらいまでの韓国で見られた「北から亡命させた最重要人物」だそうで企画亡命者というんだそうです。
監督は「
新しき世界」の監督で、次回作も期待できそうですわい。
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