監督・脚本:クラウディア=リョサ
出演:ファウスタ(マガリ=ソリエル)、ノエ()、ほか
見たところ:横浜シネマジャック&ベティ
ペルーの首都リマ近郊の村で一人の老婆が亡くなった。かつてならず者たちに夫を殺され、レイプされた彼女にはその時、おなかの中にいた娘がおり、名をファウスタという。ファウスタは美しい娘に成長したが、母乳から母の苦しみを受け継ぐと村人が信じる恐乳病にかかっており、一人で出歩くことも男性と話すこともできなかった。しかし、母を生まれ故郷の村に葬るため、ファウスタは町のお屋敷で暮らす女性ピアニストのもとでメイドとして働くことになり、母から受け継いだ歌を口ずさむ彼女に、ピアニストは歌1曲に真珠1粒という申し出をする。最初のうちは歌えなかったファウスタだったが、やがて求められるままに歌うようになり…。
母の傍でレイプされたという歌を聴き、その恐怖や苦しみを受け継いでしまったファウスタ。彼女は恐怖のために鼻血を出し、気絶するほど、外の世界に対し、厚い壁を築いています。さらに、膣に馬鈴薯を植え、体外に出てきた芽を切り落とすファウスタ。彼女はそれだけが、レイプという卑劣な手段を彼女に浴びせようとする男たちから身を守る、唯一の方法だと信じているのです。
けれど、母を村で葬儀するため、町へ出、お屋敷で働くようになった彼女は少しずつ変わっていきます。一人で帰ることはできなくても、以前は話すことさえ想像できなかった庭師のノエに送ってもらったり、女主人に請われるままに歌を唄うようになったり。
ノエは、人とふれあうことが苦手なファウスタが、仕事中に声をかけられ、門を開けてあげるただ一人の人物で、一見、冴えないおっさんですが、ファウスタをナンパするような若者に比べると、実直さと優しさのうかがえる男性なのです。
本当は給料を前借りしたかったファウスタなのですが、女主人が「例がない」という理由で断ったため、金ほしさに真珠と引き換えに歌を唄うようになります。
しかし、ピアニストは作曲に悩んでおり、ファウスタの曲を盗んで新作として発表したばかりか、約束の真珠も与えずに彼女を道ばたに放り出しさえするのでした。
今までのファウスタならば、そのまま泣き寝入りしたでしょうが、彼女は様々な経験を得ることで強くなっており、真珠を盗みにお屋敷に忍び込みさえします。ここら辺のユーモアもまじえた描き方はなかなか。
でも、屋敷から出たところで気絶してしまった彼女を助けたのは、やっぱりノエでした。ノエの腕のなかで初めて泣きじゃくった(母親が死んだ時も鼻血を出して気絶したのみで泣いていない)ファウスタは、馬鈴薯を取り出してくれるよう頼みます。
そして母を海岸(おそらく、故郷の村ではないと思われる)に葬ったファウスタの台詞から、母が海に憧れていて、その願いをかなえてやったのではとも考えられるラストを経て、ようやくファウスタは、人として歩き始めるのでした。
作中の歌はケチュア語だそうで、主演の女優さんの即興歌だそうな。この映画がデビュー作となり、現在は女優や歌手として活動中。
それにしても、作中でプールに入っているってことはかなり暑いんだと思うのですが、ファウスタのお母さんの死体、丁寧に布で二重にくるんでるんだけど、臭いがすごいと思うんだ。ペルーではそういうものなんでしょうかね? 日本じゃ考えられないけど。
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