金庸著。岡崎由美監修。小島瑞紀訳。徳間書店刊。全7巻。
折り返しの4巻目です。サブタイトルは「天魔 復活す」で、魔教(自称は日月神教)の前当主・仁我行が12年にわたる幽閉から解放されたのを指してます。
前巻で令狐冲が助太刀した向問天は、この仁我行の腹心で、前当主を解放させる目的もあって令狐冲を西湖のほとり、梅荘に連れてきたようです。ただ、結果的に令狐冲は仁我行の秘術、吸星大法を習得しちゃった上、今までの内力を失って死ぬ寸前だったのを助かったんで結果オーライな展開ですが、まだまだ岳霊珊に未練たらたらなもんで、ぜんぜん喜ぶような状態じゃない上、この巻では師の岳不羣らに再会しても裏切りとか、魔教の人間と交友したことなんかを責められちゃって、精神的にはどん底状態です。しかし、基本的に明るいキャラなんで、恒山派(尼が主体の五剣嶽派の一派で、美少女尼・儀琳ちゃんが所属してるところ)が魔教(後から考えると嵩山派の陰謀くさいですが)に襲われたところを助太刀した縁もあって、次巻まで恒山派と一緒に行動します。むしろこの巻の最後であれほどまでに恋い焦がれた岳霊珊に罵声を浴びせられて、自殺とか考えなかったのも、令狐冲の明るさと恒山派の尼僧たちとの交流もあったせいかなんて思います。まぁ、当初から書いてるとおり、わしは岳霊珊の苦労知らずのお嬢様然とした立ち居振る舞いはちっとも魅力的に思えないんで、令狐冲もさっさと見切りをつければいいのにと思いますが、なかなかそううまくはいかないのが惚れた腫れたの恋心なんでしょうなぁ…
ただ、こちらの恒山派、わりと平等な視点で正派・邪派から追われる令狐冲を助けてくれますが、この巻で定静、次巻で定閒、定逸と大物3人が死んでしまい、令狐冲が定閒師太から頭領になるように頼まれてますが、基本、女性しかいない一派(尼僧だけじゃなく在家の女性も含まれる)なんでどうなるのか心配です。
仁我行は、ヒロイン仁盈盈のお父さんだったりしますが、仁盈盈は3巻以来出番がないのでどうなったのか不明ですし、仁我行もあんまり行方を訊ねたりしません。ドライな関係なのか、それにしては仁盈盈があれほどの権力を持っているのは仁我行の娘だからだと思うんですが、その謎は次巻に持ち越しです。
図らずも復活した令狐冲、加えて風清揚に教わった独狐九剣のおかげで無類の強さを得てしまいました。いままで崋山派の一番弟子とはいえ、並み居る大物にはとうていかなわない凡人だったのがいきなり最強の一角に名乗りをあげた感じです。しかも、当人はまだまだ伸びしろも備えているもので主人公とはいえ、たいした優遇っぷりです。
一方、巻が進むごとに小物くさくなっていく師匠の岳不羣ですが、この巻では岳夫人のが女を上げまして、ますます格が落ちてます。まぁ、人物紹介のとおり、岳夫人が令狐冲を庇い、というだけなんですけど、この人は仁我行も認める女性なもんで、岳不羣の名声は地に落ちても、崋山派としては岳夫人がいるから大丈夫な感じがしてきましたが、すでに令狐冲は崋山派に収まらぬ器になりつつある上、第2巻で令狐冲といちばん親しかった崋山派の陸大有を殺して崋山派の秘術・紫霞秘笈を奪ったのが二番弟子の労徳諾だったんで、夫妻以外に手練れがいないのが気になるところです。剣術派とは相変わらず不倶戴天の敵同士だし。
嵩山派の左冷禅は、1巻から劉正風一家を皆殺しにさせて冷徹なところを見せつけてきましたが、いよいよ五剣嶽派を1つにしたいとの野望を露わにしてきまして、さらなら波乱を予感させて次巻に続きます。
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