遠藤周作著。昭和文学全集21巻。小学館。
ええ、わしは宗教沙汰は嫌いですが、遠藤周作氏の「沈黙」には興味があり、読みました。宗教は嫌いですが、宗教にからむ人間のドラマはおもしろいと思うので、興味深く読みました。たきがはの実家には、ままが大昔に買った昭和文学全集というクソ重いハードカバーの箱入りの冊子と、日本古典の全集がありまして、まさに宝の持ち腐れ、誰も全巻読破したことがないのでした。ただ、わしはちびちびどちらも読んでいるのですが、いかんせん全部で60冊以上の大作なもんで、なかなか読破とはいかないで、特に昭和文学全集の方は、各作家の代表的な短編を1冊に最低でも四人で収めているもので、本当にとある作家のを読みたかったら、ダイレクトにその本なり文庫なりを探した方が早いので、余計、手に取られない上、うちの家族はあんまり本を読まないので(父親が最近、時代・推理小説に限って読んでいるぐらい)、どうしても本棚を占めているだけのぶつと化しているのでした。で、買った当人は、歳を取ったら読むわ、と言っていたくせに、歳を取ったら眼が疲れるそうで、ますます本離れが深刻化してきたのでした。
閑話休題。
でその後、たきがはは実家で朝日新聞を読みまして、土曜版で人生相談をやっている車谷長吉さん(だったかな? 名前うろ覚え)という作家さんに興味を持ちまして、その人が読んで、影響を受けたという小説を何編か上げていたので、昭和文学全集にあるのを借りてきたのですが、1ヶ月くらい、玄関に積ん読しとったわけなのでした。
わしはよく、知っている人が「○○が好き」とか言われると興味を覚えるたちですので(それで昔、怒られたりしたんですが)、まぁ、車谷さん(とかいう作家さん)は直接の知り合いではないので、読んでみることにしたのでした。
で読んだのが「札の辻」の方で、ついでに興味を覚えたので「イエスの生涯」も読んだのでした。
「札の辻」の方は、
わたしが久々に同窓会に行き、札の辻という場所にさしかかる。学生時代、大学で事務を担当していた外国人修道士のネズミとあだ名されたユダヤ系ドイツ人と見に来たことを思い出したが、ネズミは貧相な男で、わたしが大学に来ていた軍人に殴られた時も、一緒に逃げるしかできなかった。しかし、その後、江戸時代に殉教した切支丹たちが札の辻というところで処刑されたという話を聞いて、ネズミと一緒に札の辻を訪れたのである。同窓会でわたしは、ネズミらしき人物がその後、ドイツに帰り、強制収容所でほかの囚人たちを庇って餓死したことを知る。貧相なネズミの中に隠れていた思いがけない勇気に、わたしは都電に乗って帰りながら、乗客たちの中にもネズミがいると思うのだった。
という話。期せずしてわしのこだわりの強制収容所ものだったので、ラストはびっくりした。強い信仰心など持っていそうもなかったネズミが、強制収容所でほかの囚人を庇って餓死したという思わぬ強さを見せるラストと、そんな人物がほかにもいるのだろうと言って終わるところが、実話としてそういう人物がいただけに感じ入る。
「イエスの生涯」は、
キリストの生涯を丹念に追った話なんだけど、イエスがその死の瞬間まで弟子にさえ理解されていなかったという哀しみと、ユダばかりが裏切り者として強調される中、ほかの弟子もそんな弱い人間だった、でも、イエスが十字架の上でつぶやいた言葉と、「復活」により、死をも恐れぬ強さを備えていったという展開が「札の辻」にも共通している感じ。
この巻には、ほかに小島信夫、庄野潤三、阿川弘之の作品が載っているのですが、「抱擁家族」を読み始めたら挫折したので、やっぱり全部は読まずに後は「雲の墓標」と「プールサイド小景」だけ読むことにした。
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