西崎雅夫・イム=スウン・斎藤真理子・原島康晴編。現代書館刊。
サブタイトルは「東京地区別1100の証言」とあり、そのとおり、有名無名の市民たちの朝鮮人や中国人、誤って朝鮮や中国の人たちと間違えられた日本人たちの虐殺を目撃した記録です。1つ1つの証言は多くても数ページ、だいたいが1段以内(本文は3段組)に収まるので、わりとすらすら読めますが、内容はなにしろ朝鮮の人たちを殺させた流言飛語やデマについてなので、読んでいて大変気分が悪かったです。しかも東京ではこのような記録が集められましたが、犠牲者の数でいったら神奈川の方が多く、その記録もないというのですから、まぁ、暗澹たる気持ちになります。と言いつつ、昼飯を食いながら読んでいたわけですが。もぐもぐ…
まず全般について言えば、さも朝鮮や中国の人たちを保護したように振る舞ってる警察(各区・地区の最後に警察の記録が掲載されている)ですが、そもそも「不逞鮮人」のデマを飛ばしたのは警視庁であり、官庁なので、大変厚かましい話ですネ。だいたい「不逞鮮人」のビラを貼るのだって警察の指示だっていうんですから、自分でデマ飛ばしておいて、さも保護者面して被害者を守るとか、くそったれとしか思いませんでした。だから警察は信用がならんと言うのじゃ。
あと、テレビのない時代ですし、ラジオは記録が残ってないので新聞になりますけど、まぁ、どいつもこいつもデマのオンパレードで、この後、大本営発表を垂れ流すんですから、日本のメディアというのは勉強も反省もしないので、ますます信用がなりません。玉石混淆なネットのがまだましだっていう。特に地方新聞が酷く、ちゃんと取材してないで伝言だけだろおらなデマを垂れ流しまくってます。また中央紙でいったら国民新聞というのが名前からして酷いんですけど、中身も最悪で、これはもしや産経新聞の前身ではあるまいなと思ってググったら東京新聞でした。おーい… しょせんメディアはメディア。
そして、デマこそ振りまいてませんが、重装備をしているという点においては自警団よりもっと始末の悪い軍隊が組織的に朝鮮の人たちをぶっ殺しているのを見ると、同じような事態になったら自衛隊もするよねと確信しました。
あと「
隠された爪跡/払い下げられた朝鮮人」で習志野の捕虜収容所に集められた朝鮮の人たちが地元の自警団に文字どおり「払い下げられ」て虐殺されたのを見ていると、朝鮮の人たちが「習志野に送られた」と読むと、大丈夫かよと心配になったのですが、たいがいは「生きて帰ってきた」という証言ばかりだったので、殺された人たちが余計に気の毒でした。「払い下げられ」たのはどういう基準だったのか…
で、思いましたけど、「未曾有の震災にかこつけて、普段、何かと差別をされている朝鮮人(文中ではほぼ「鮮人」という差別語)たちが報復に立ち上がる」というデマを大方の日本人があっさり信じた理由というのはよほど普段から後ろめたいことを朝鮮の人たちにやっていて、それで自分たちが大変だっていうんで差別意識が引っ繰り返って被害者面してんだろうなぁと。
むしろ、震災のどさくさに紛れて放火だの強姦だのやってたのは日本人の方で、後に書きますけど、ほとほと日本人の程度の低さが嫌になります。もう、ほんとに。
というか、わしも差別することがないとは言いませんけど、「○○人だから」という差別というのが生まれてこの方理解できないもんですから(うちの両親が幸いにしてそういうことを広言する人物ではなかったためと思われます。ただし、たまに言うことはある)、自分たちの日頃の行いを反省する前に報復されることを恐れるとか、どんだけ自己中なんだよ!とさんざん突っ込みが炸裂してました。
あと、朝鮮の労働者たちが日本人の半分の賃金で雇われて貧乏しているのに、日本人労働者が逆に「あいつらに仕事盗られた」と逆恨みしているのは、相変わらず、この国は分断が姑息だなと思いました。騙される日本人の馬鹿さ加減もいい加減に嫌になりますが。
また、この後で個別の突っ込みというかメモでも書きますけど、いわゆる作家とか記者という肩書きがついている連中は知識人だとわしは認識していたんですけど、その認識は間違いだったと考えを改めます。むしろ記者なんか率先してデマをまき散らす人間だと認定します。まぁ、新聞がそういうものですから、それを書いてる連中がまともなわけねぇだ。
いくつか印象に深い(良くも悪くも)証言があったので適当にメモ。付箋はこういう時に使うのだな…
田山花袋というわしでも知ってる(著作は未読)著名な作家から、聞いたこともないような無名の作家まで、震災にかこつけて暴力を振るうことを痛快に思う人間が大勢いることを唾棄します ( ゚д゚)、
逆に材木商の宇佐美政衛というおっさん(たぶん)が「
日本人は考えが単調ですぐに動揺する。実に心持ちの小さな人種だと思った」とか「
些細な事にすぐ騒ぎ立て、逆上する日本人の狼狽ぶりが見え苦々しく思った」と書いているのを読んだ時にはそのとおり!!!と膝を叩きたい気持ちでした。
おっちゃん、100年近く経っても日本人は全然進歩しとらんのやで… むしろ、ますますけつの穴は小さくなっとんのやで… と教えてあげたいです。
わしでも知ってる物理学者の寺田寅彦先生(元ネタは「帝都物語」だったりしますけど…)が「昨夜上野公園で露宿していたら巡査が来て○○人の放火者が徘徊するから注意しろと言ったそうだ。(中略)
こんな場末の町へまでも荒して歩くためには一体何千キロの毒薬、何万キロの爆弾が入るであろうか」と科学者らしく冷静な判断をしていたのは、さすがだと思いました。
「非常時の中に笑いあり」ってタイトルで毎日新聞社が編集した本が出てるんですけど、紹介してるのが朝鮮の人を三人やっつけたと自慢する親父の話で、どこが「笑い」なのか聞きたい。小一時間くらい問い詰めたい。
大震災後の春に、朝鮮の二人の弁士が市内の各所を廻って謝罪の旅をしていたと紹介してました。書いた人は日本人が謝罪するならまだしも朝鮮の人が謝罪するのはおかしいだろうと感想を書いてましたが、わしも同感です。明らかに謝る側が間違ってます。しかし、それで笑いを取ったというのですから、それが当時の日本人の一般の感覚だったんでしょう。で、また何かあれば報復を心配するんでしょう。糞食らえです。
軍隊が東京の秩序を守ったことに感心する大人たちの言動が書いてあり、それが軍隊を見直した、までに発展したのは現在の自衛隊が災害救助隊として東日本大震災で活躍し、賛美された構造とそっくり同じです。ただ、わしは何度も書いてますし、何度も言いますけど、
災害救助隊ならば武器は要りません。やっぱり自衛隊は要らないし、どこの国の軍隊も要らないと言います。
またさらに、後の軍閥の台頭、戦争の幕開けまでと結びつけたのは慧眼だったと思いますが、自衛隊も同じ轍を踏むでしょう。
警視庁の職員が「鮮人が攻め込まぬよう管内の警備を固めるよう」という本部命令を伝達したところ、警視に「そんな馬鹿なことがあるか」と一笑に付されたと残してます。デマをまき散らしたのは警察でしょうに。
日本人の朝鮮の人たちへの差別感を「人間感情の通路としては深くて底なし」と見抜き、「感情通路の(文脈から「を」の間違い」と思われる)亀裂させ溝をつくる感情媒体の根深い遺恨をつくり出した日本人民大衆の「どしがたい」感情閉塞を作り出している根本を掘り下げ」る必要があると書いている人があり、たかが100年にもならぬつき合いで、最も近しい隣国の人びとをこうも蔑視する日本人の差別意識というものは、ヨーロッパの反ユダヤ感にも負けず劣らぬ感があるのではないかと思えました。
判事のおっさんが「「鮮人2千名来襲せり」と報し歩きたりと聞く。諸種の事実を総合して考うるにこれは真実なり」と書いてましたけど、何一つそんな事実なんかないのに何を根拠にそう言い切るんですかね。こういう奴が幸徳秋水や朴烈を大逆罪に持ってったりするんじゃないですかね。
他にも「自分が聞いたから」とか「警察がビラを貼っていたから」事実だと言ってる奴はいましたけど、ここまで
根拠のない事実を述べた馬鹿が判事とか、日本の司法って昔から真っ暗なんですネ。
こんなところで。
何ヶ所かで犠牲者の朝鮮人女性の陰部に竹槍を刺してあったとかあって、南京大虐殺で頂点に達した日本人の残虐性はこういうところにも萌芽があるんだなぁと最後まで暗澹たる気持ちでした。
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