監督:黒澤明
原作:山本周五郎「季節のない街」
出演:六ちゃん(頭師佳孝)、その母(菅井きん)、たんばさん(渡辺篤)、島さん(伴淳三郎)、そのワイフ(丹下キヨ子)、平さん(芥川比呂志)、お蝶(奈良岡朋子)、乞食の父親(三谷昇)、その子ども(川瀬裕之)、父ちゃん(三波伸介)、母ちゃん(楠侑子)、(井川比佐志)、(田中邦衛)、かつ子(山崎知子)、その叔父(松村達雄)、その叔母(辻伊万里)、酒屋の少年(亀谷雅彦)、老人(藤原釜足)、ほか
1970年、日本
黒澤映画初のカラー作品。
ゴミだめの中にある貧しい架空の街を舞台に、市井の人びとのつつましい生活やたくましさ、愛情などを7つほどの短いエピソードでつづったオムニバス映画。
わし的には、これの後「デルス・ウザーラ」をもって、黒澤映画への興味は失せます。いわゆるスターは一人も出ておらず、今までの黒澤映画に比べると地味な映画ですが、出演されてる俳優さんが芸達者な方が多いので各エピソードはおもしろいです。特に好きなのは三波伸介さんの「父ちゃん」とたんばさん関係のエピソード、伴淳三郎さんの芸達者ぶりを堪能できる「僕のワイフ」、衝撃的なのは「プールのある家」です。
「父ちゃん」の話は7人目の子どもを妊娠している母ちゃんと父ちゃんの間には種違いの子ばかり男4人、女2人の子どもがいるけれど、どうも父ちゃんの子どもは一人もいないらしい。でも繊細な刷毛職人として貧しいながらも子どもたちを慈しんで育てている父ちゃんのキャラクターが、三波伸介さん自身のキャラと相まって、ほのぼのといい話なのでした。昔、「減点パパ」って見てたし。調べてみたら、「お笑いオンステージ」の1コーナーでした。番組の最後にあったんで印象が強かったのか。エンディングも歌えるぞ。
たんばさんは自分のエピソードはわりと短いのですが、盗みに入った泥棒に財布を与えたり(後で捕まって余罪を吐いた泥棒を刑事が連れて来ても「知らない」ととぼける)、酔っぱらって暴れるジェリー藤尾を「疲れただろうから替わろう」と言ってなだめちゃったりという飄々としたところが好きなんですが、自分では何ひとつしようとせず、日がな一日中、家を建てるという妄想にふけっている乞食の父親と子どもが食中毒(いくら酢でしめてあるからといって、何日か経ったしめ鯖を生で食べた)で苦しんでいるのを、ただ一人、心配したり(でも父親は、言葉の端々にインテリなのがうかがえて、それで半端に知識をひけらかしているところもあるので街の中心にある水道で年中、洗濯をしながら井戸端会議をやっているおばちゃんたちには煙たがられている)、挙げ句、子どもが死んでしまえば、火葬までしてやり、墓穴を掘るのにも立ち会ったりと、いい人です、たんばさん。黒澤映画の常連、藤原釜足さんが死にたがっている老人ならば、毒を与えて自殺を幇助しているように見せつつ、彼が失った妻子の夢を見ると言うと「あんたが死んだら、その人たちも本当に死んでしまう」と言って自殺を思いとどまらせ、渡したのも実はただの胃腸薬だったりとか和むわ、たんばさん。
「僕のワイフ」は、悪妻で、評判も悪いけど、島さんにすれば苦楽をともにしてきたワイフなんだよ、というエピソードが良いです。
「プールのある家」はたんばさんのところであらかた書いてしまいました、家を造るという夢想にふける父親に、子どもがけなげにつき合って、残飯をもらって、でも最後は死んでしまった子どもが、死ぬ間際に言い残した「プールが欲しい」と言ったのを、父親が掘った墓穴を見て「ほら、プールができたよ!」と言うというエピソードがまぁ、そのシーンの色の毒々しさもありまして、なかなかな出来。
前作「赤ひげ」までの大作に比べると小粒ですが、佳作だと思うんですよ。
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