趙廷來著。伊學準監修。川村湊校閲。筒井真樹子、安岡明子、神谷丹路、川村亜子共訳。集英社刊。全10巻。
サブタイトルは「歴史の逆流」です。そのタイトルのとおり、権力者の反撃が多い巻です。筏橋(ボルギョ)の戒厳軍司令官だった沈宰模(シム=ジェモ)でしたが、その存在を快く思わない地主たちや青年団の監察部長に降格させられた廉相九(ヨム=サング)や討伐隊(中身は警察)の林萬洙(イム=マンス)らの策謀により容共行為で逮捕されてしまいます。
また上海に亡命していて日本の敗戦後に帰国した朝鮮亡命政府の指導者、金九(キム=グ)が暗殺されてしまい、盛大な葬儀が催されます。金範佑(キム=ボム)は金九を支持していたので驚くとともにこの国の歴史が逆流しているという思いを新たにします。
筏橋に新たに赴任してきたのは白南植(ペク=ナンシク)という関東軍出身の右翼ですが、これがとんでもない乱暴者で何かと暴力を振るい、徐民永(ソン=ミニョン)や全(チョン)院長、李知淑(イ=ジスク)、孫承旻(ソン=スンホ)らを脅しにかかったり、争議を起こす小作人たちをすぐに留置所に押し込めたりとやりたい放題してます。
孫承旻は左翼とは訣別した思想の持ち主なのですが、白南植に無理矢理に国民輔導連盟の支部長を押しつけられそうになり、ソウルへ逃げ出します。左翼に与するつもりはないけれど右翼もまっぴらな中道思想の持ち主なので権力の手先になるわけにはいかないようです。ソウルにはすでに金範佑もいますからね。
もちろん廉相鎮(ヨム=サンジン)たちの反撃も激化しており、人手不足の戒厳軍はどうしても後手後手に回らざるを得ません。ただ、そのために徴兵制度なども敷かれるようでますます窮屈な国になりつつあります。
廉相鎮は党の方針でどこかに異動になり、宝城(ポソン)郡委員長の任を解かれます。後任は安昌民(アン=チャンミン)、廉相鎮の兼ねていた筏橋の地区リーダーは河大治(ハ=デジ)となります。
一方、安昌民が大けがをするきっかけとなった姜東植(カン=ドンシク)は妻の外西(ウェソ)宅が廉相九(ヨム=サング)に犯され、子どもまで身ごもったので自殺を図ったことを知らされ、復讐心に燃えたぎります。安昌民にけがをさせたことで自己批判した意味ないやんか…
沈宰模は金範佑や徐民永らの働きにより、この巻のうちに釈放されますが、今度は筏橋のある全羅南道よりももっと共産党の抵抗が激しいという38度線に近い忠清北道への配属が決まります。
またソウルには学徒兵に出陣させられたために中断した勉強の続きをやるために出てきた金範佑でしたが、この巻の最後の方では新聞記者になろうと決心します。裏表紙に粗筋が書いてあるんですけど、この人もけっこう激動の人生送るんだよね、この後… そう考えると金範佑って「
火山島」の李芳根(イ=バングン)連想するんですわ。いちばん好きなキャラでしたからね。
そして大勢の小作人たちが待ち望んでいた農地改革法は、地主に有利な骨抜きな法にされてしまい、小作人たちの不満が日に日に広がっていました。ついに立ち上がった小作人たちに容赦なく振り下ろされる青年団や討伐隊による暴力。ますますの波乱を予感させて折り返し地点です。
レビューでは紹介しきれませんけど、地主から右翼学生から、小作人の子どもたちと、多種多彩な登場人物たちが次々に現れ、エピソードを紡いでいく様は鮮やかです。原文は全羅南道の方言を交えて書かれているそうですが、四季の移り変わり、農村の営み、季節を迎える人びとの心の機微などが目に浮かぶように書かれていて、まさに大河小説って感じです。まぁ、それだけじゃすまないんですけどね。日本人だから…
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