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されど平穏な日々

日々のつぶやきと読んだ本と見た映像について気まぐれに語るブログ。Web拍手のメッセージへのレスもここ。「Gガンダム」と「ジャイアントロボ」への熱い語りはオタク度Maxにつき、取り扱い注意! 諸事情により、コメントは管理人が操作しないと反映されません。時々、サイトの更新情報など。

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太白山脈 第9巻

趙廷來著。伊學準監修。川村湊校閲。筒井真樹子、安岡明子、神谷丹路、川村亜子共訳。集英社刊。全10巻。

サブタイトルは「奪われ行く解放区」です。1951年7月から休戦協定が始まりますが、最前線の38度線はもとより、南に残ったパルチザンたちもアメリカの武器を携えた討伐軍の投入により、だんだん解放区を奪われていきます。

と同時に名のあるパルチザンたちも次々に戦死していき、ページをめくるのが辛い展開が続きます。特に孫承旻(ソン=スンホ)に字を教わり、自身はパルチザンの経験を伝えていく通称、釜の蓋という旧パルチザン(戦争前からパルチザン闘争をしている者をこう呼んでいまして、歴戦の闘士ばかりです)の死はひときわ印象深いものでした。ていうか、たきがははつくづく、こういう縁の下の力持ち的なポジションに弱いです。

一方、人民軍に入ったものの、捕虜となった金範佑(キム=ボム)は巨済島(コジェド)の捕虜収容所で鄭河燮(チョン=ハソプ)と再会します。そういや鄭河燮は置いてきた素花(ソファ)ちゃんが男の子を産み落としたことも知らないままなんだなぁと思うと…( ´Д⊂ヽ
ちなみにお兄ちゃんの金範俊(キム=ボムジュン)は廉相鎮(ヨム=サンジン)と一緒に行動中です。北の兵士だったけど南の人だから、このまま、ここに残ることを選んだのでしょうか。

巨済島といったら「黒水仙」という映画を思い出すくらいには映画マニアなわし…

また廉相九(ヨム=サング)は金持ちの娘と結婚、つまり逆玉の輿に乗り、筏橋の名士としてふんぞり返ってますが、性格がチンピラなもんで、横暴なのは変わりません。あと、兄弟の板挟みになって苦しむお母さん、虎山(ホサン)宅にも嫁がつれないもので冷たいし、人でなしやおまい…

そして李鶴松(イ=ハクスン)の「解放日報」での同僚だった金美善(キム=ミソン)さんは子どものためにソウルに残りましたが逮捕されてしまい、死刑を宣告されます。しかも、親日派の経歴を持つ作家から転向の文書を書けば死刑を免れられると脅されて承諾、これが400字詰め原稿用紙で1000枚ってんだから、どんな長編書けというのだ… いずれ出版されて反共に利用されるのかと思うと彼女も辛い立場です。子どもがいたら辛いし、行方不明な李鶴松も辛いだろうし、どっちに転んでも辛いという…

徐民永(ソ=ミニョン)は無事でしたが、そういや、彼が当選させた安昌倍(アン=チャンベ)は議員なのに特高そっくりな特務に拷問を受けてます。

智異山(チリサン)にパルチザンたちが集結したところでいよいよ最終巻です。

「太白山脈」でググっても見つけられなかったんですが「筏橋」で検索したら太白山脈文学館というサイトが見つかったんでリンクしときますね〜
そして、「太白山脈」と合わせて「アリラン」「漢江」で三部作となっていたことを知ってショックでかぞう…orz 「アリラン」といったら、廉相鎮が作中で歌うシーンが印象深かったんですが、河大治(ハ=デジ)たちの続編かなぁ… 時系列的には「アリラン」「太白山脈」「漢江」だそうなんですが。

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太白山脈 第8巻

趙廷來著。伊學準監修。川村湊校閲。筒井真樹子、安岡明子、神谷丹路、川村亜子共訳。集英社刊。全10巻。

サブタイトルは「骸骨の隊列」です。食糧事情の厳しいパルチザンのことかと思っていたらさにあらず。徴兵された新兵たちが必要な食事も与えられず、泊まるところもなく、戦場から戦場へ歩く様を描写したものでした。

中共軍の参戦と厳しい冬が来て、戦線は再び人民解放軍に有利になりますが、これが一時的なものであることはみんなわかってます。
その中で金範佑(キム=ボム)がアメリカ軍を脱走して人民解放軍に加わり、孫承旻(ソン=スンホ)がパルチザンとして経験を積んでいきます。1巻の頃には考えられなかった変貌ぶりです。
その一方で素花(ソファ)と河大治(ハ=デジ)の女房のドルモル宅は里に下り、筏橋には行かずに後方支援に働きますが、廉相九(ヨム=サング)の手先に発見され、逮捕されてしまいます。
また、満州まで行った李鶴松(イ=ハクスン)ら、「解放日報」の記者たちは人民解放軍がソウルを奪還したのでソウルに戻ってきますが、李鶴松の家族は行方不明となってしまっていました。そうそう、李鶴松は満州で鄭河燮(チョン=ハソプ)と出会いました。そういや平壌に行かされてたなぁ。こういう、別々に活動していた登場人物たちが出会うのは大河小説ならではの醍醐味ですね。
沈宰模(シム=ジェモ)は相変わらず不正を嫌う潔癖さで新兵の教育だったのがまた前線に送られたりしてます。彼を慕う順徳(スントク)という娘は彼を追いかけていった丹陽(タニャン)で待ちわびていますが、米兵の横暴さに巻き込まれそうになったりと大変です。

この巻では独立運動に加わった長男、範俊(ボムジュン)や学徒兵として出陣した次男、範佑を温かく、広い眼差しで見守ってきた筏橋(ボルギョ)唯一の心ある地主だった父、金思鏞(キム=サヨン)が亡くなり、廉相鎮(ヨム=サンジン)は範俊とともに遠くから野辺送りを見守るのでした。

そしてパルチザンたちに回帰熱が流行り、大勢の人が亡くなりますが、これは米軍が病原菌を撒いたのではないかと疑われてます。まぁ、やるでしょう。なにしろ米軍には731部隊の幹部をその情報と引き換えに戦犯にしないという取引を行った罪状がありますからね。回帰熱には孫承旻や筏橋の小作人だった金福東(キム=ボクトン)らがかかってしまいます。

1953年の休戦に向けて、粛々と広げた風呂敷を畳んでいく著者の手腕が見事です。

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太白山脈 第7巻

趙廷來著。伊學準監修。川村湊校閲。筒井真樹子、安岡明子、神谷丹路、川村亜子共訳。集英社刊。全10巻。

サブタイトルは「鴨緑江の苦い水」です。釜山(プサン)まで国軍を追い詰めた人民軍でしたが3ヶ月後、仁川(インチョン)への上陸作戦からアメリカの反撃が始まり、爆撃機による絨毯爆撃の効果もあって退却していくことになります。鴨緑江(アムノクガン)は朝鮮と中国(旧満州)との国境を流れる河で、人民軍はそこまで退却させられたのです。ただ、廉相鎮(ヨム=サンジン)たちはまた山に籠もるようになり、遊撃に戻ります。この巻で語られるのは人民軍の解放と挫折という感じで、ラストでは中国の人民解放軍が参戦してきます。

金範佑(キム=ボム)は途中まで共産党にも属さず、逃げ出しもせずでソウルにいますが、立場をはっきりしなくちゃいけなくなってきて、故郷に帰ろうとします。しかし、彼はアメリカ軍の反撃を予想しており、最終的にはアメリカに捕らえられて、通訳として働かされています。
彼の兄、金範俊(キム=ボムジュン)は満州で独立運動に携わっていましたが、人民軍の将校となって故郷に凱旋します。

廉相鎮たち共産党は農地改革を実施したりしましたが、納税前の調査でケチをつけてしまい、小作人たちに「強欲な日本人どもでさえしなかった」と言われるような米の粒まで数える公平さでそっぽを向かれて、アメリカ軍の反撃が始まって、退却することになります。なかなかうまくいかないものです。そこら辺の理由とか、小作人たちの心情とか、共産党がそういう策を取った理由とか、どちらの側からも書かれているんですが、難しいです。

そして、共産党の女性同盟とか青年同盟に加入した人たちが右翼の報復を恐れてともに山に籠もるようになり、その数はどっと増えました。外西(ウェソ)宅もパルチザンになって山ごもりだし、素花(ソファ)ちゃんも李知淑(イ=ジスク)先生も山へ。河大治(ハ=デジ)も夫婦揃って山へ。両親を恋しがる息子たちの様子が切ないです。
徐民永(ソ=ミニョン)はどうしたんだろう、そう言えば…。

朝鮮戦争は中国軍が加わってから、さらに3年ほど続くのですが、登場人物たちの運命はまだ二転三転しそうです。

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太白山脈 第6巻

趙廷來著。伊學準監修。川村湊校閲。筒井真樹子、安岡明子、神谷丹路、川村亜子共訳。集英社刊。全10巻。

サブタイトルは「女パルチザンの死」です。誰か知っているキャラクターかと思ったら、すでに死んでいるパルチザンの女性の死を沈宰模(シム=ジェモ)が見かけるということでした。これで沈宰模も人民軍に投降かと思ったらさにあらず、軍隊は何かと煩悶しつつ、まだ任務に忠実な軍人です。

廉相鎮(ヨム=サンジン)たち左翼への攻撃は掃討作戦となった凄まじく、多数の犠牲者を出しました。そのため、主要なメンバーはまだ無事ですが、栗於(ユロ)を放棄しなければならなくなり、勢力の温存を図っているところです。

そして第2回の国政選挙が行われましたが与党は惨敗し、徐民永(ソン=ミニョン)が筏橋(ボルギョ)の影の実力者ぶりを発揮してます。沈宰模解放の時にも議員の崔益承(チェ=イクスン)を脅したりしたんですが、そのレベルも越えて、崔益承を落選させようと暗躍しちゃいます。この方、クリスチャンで、もともと両班(ヤンパン)という貴族の家柄なんですが、自分の農地を小作人たちに解放し、夜学もやるという左翼っぽい活動をしてまして、真っ先に有島武郎が思い浮かびました(有島武郎の名前が思い出せずに森雅之さんの名前でググったのは内緒ですよ?)。金範佑(キム=ボム)や孫承旻(ソン=スンホ)、沈宰模らが先生と敬う知識人です。

さらに、とうとう朝鮮戦争が勃発します。怒濤の勢いで南下する人民軍に対し、なすすべもなく退却していく国軍は、首都をソウルから太田(テジョン)、大邱(テグ)へと移し、次巻で釜山(プサン)にまで追い詰められるのでしょう。
そして、筏橋の穏健な警察署長だった権炳済(クォン=ビョンジェ)でしたが、やっぱり警察官なので左翼を嫌悪しており、国軍を支援するアメリカに期待したり、転向した元左翼の人たちを加入させていた輔導連盟を射殺しちゃったりとやばい方向に向かいつつあります。ただ、良心の呵責を覚えるというので全明煥(チョン=ミョンファン)医師だけ逃がしてますが、輔導連盟に加入させた李知淑(イ=ジスク)や素花(ソファ)は逃走していて無事でしたけど、筏橋に残っていたら、やっぱり殺しちゃったんだろうなぁという描写が、警察はしょせん警察という感じがぬぐえません。
むしろ栗於に新しく来た警察支署長の李根述(イ=グンスル)という人物の方がまともです。まぁ、この人は解放後に逃げ出さなかったただ一人の警官と書かれているので、そうすると権炳済は逃げ出したんだろうから、そうなっちゃうんでしょうけど。

そして、金範佑がソウルに行ったことで新聞記者の李鶴松(イ=ハクスン)という人物がけっこう描かれるようになって、こちらも拷問受けたり、転向させられたり、人民日報の記者になったりと波瀾万丈です。

素花ちゃんの趙社長のクッが1章分取られて、扱いは大きかったんですが、いつも賑やかな女性たちの活躍はわりと少なめな巻でした。

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太白山脈 第5巻

趙廷來著。伊學準監修。川村湊校閲。筒井真樹子、安岡明子、神谷丹路、川村亜子共訳。集英社刊。全10巻。

サブタイトルは「歴史の逆流」です。そのタイトルのとおり、権力者の反撃が多い巻です。筏橋(ボルギョ)の戒厳軍司令官だった沈宰模(シム=ジェモ)でしたが、その存在を快く思わない地主たちや青年団の監察部長に降格させられた廉相九(ヨム=サング)や討伐隊(中身は警察)の林萬洙(イム=マンス)らの策謀により容共行為で逮捕されてしまいます。
また上海に亡命していて日本の敗戦後に帰国した朝鮮亡命政府の指導者、金九(キム=グ)が暗殺されてしまい、盛大な葬儀が催されます。金範佑(キム=ボム)は金九を支持していたので驚くとともにこの国の歴史が逆流しているという思いを新たにします。
筏橋に新たに赴任してきたのは白南植(ペク=ナンシク)という関東軍出身の右翼ですが、これがとんでもない乱暴者で何かと暴力を振るい、徐民永(ソン=ミニョン)や全(チョン)院長、李知淑(イ=ジスク)、孫承旻(ソン=スンホ)らを脅しにかかったり、争議を起こす小作人たちをすぐに留置所に押し込めたりとやりたい放題してます。
孫承旻は左翼とは訣別した思想の持ち主なのですが、白南植に無理矢理に国民輔導連盟の支部長を押しつけられそうになり、ソウルへ逃げ出します。左翼に与するつもりはないけれど右翼もまっぴらな中道思想の持ち主なので権力の手先になるわけにはいかないようです。ソウルにはすでに金範佑もいますからね。

もちろん廉相鎮(ヨム=サンジン)たちの反撃も激化しており、人手不足の戒厳軍はどうしても後手後手に回らざるを得ません。ただ、そのために徴兵制度なども敷かれるようでますます窮屈な国になりつつあります。
廉相鎮は党の方針でどこかに異動になり、宝城(ポソン)郡委員長の任を解かれます。後任は安昌民(アン=チャンミン)、廉相鎮の兼ねていた筏橋の地区リーダーは河大治(ハ=デジ)となります。
一方、安昌民が大けがをするきっかけとなった姜東植(カン=ドンシク)は妻の外西(ウェソ)宅が廉相九(ヨム=サング)に犯され、子どもまで身ごもったので自殺を図ったことを知らされ、復讐心に燃えたぎります。安昌民にけがをさせたことで自己批判した意味ないやんか…

沈宰模は金範佑や徐民永らの働きにより、この巻のうちに釈放されますが、今度は筏橋のある全羅南道よりももっと共産党の抵抗が激しいという38度線に近い忠清北道への配属が決まります。
またソウルには学徒兵に出陣させられたために中断した勉強の続きをやるために出てきた金範佑でしたが、この巻の最後の方では新聞記者になろうと決心します。裏表紙に粗筋が書いてあるんですけど、この人もけっこう激動の人生送るんだよね、この後… そう考えると金範佑って「火山島」の李芳根(イ=バングン)連想するんですわ。いちばん好きなキャラでしたからね。

そして大勢の小作人たちが待ち望んでいた農地改革法は、地主に有利な骨抜きな法にされてしまい、小作人たちの不満が日に日に広がっていました。ついに立ち上がった小作人たちに容赦なく振り下ろされる青年団や討伐隊による暴力。ますますの波乱を予感させて折り返し地点です。

レビューでは紹介しきれませんけど、地主から右翼学生から、小作人の子どもたちと、多種多彩な登場人物たちが次々に現れ、エピソードを紡いでいく様は鮮やかです。原文は全羅南道の方言を交えて書かれているそうですが、四季の移り変わり、農村の営み、季節を迎える人びとの心の機微などが目に浮かぶように書かれていて、まさに大河小説って感じです。まぁ、それだけじゃすまないんですけどね。日本人だから…

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