ダシール=ハメット著。村上啓夫訳。創元推理文庫刊。
ハードボイルドを確立した作家ダシール=ハメットの最高傑作と名高い推理物ですが、ボギー主演の映画も有名ですよね。
サンフランシスコに事務所を構える私立探偵サミュエル=スペイド。そこに妹を連れ戻したいと言ってニューヨークから来たワンダリーと名乗る女性が依頼に現れ、スペイドは相棒のマイルズ=アーチャーをフロイド=サースビーという男の尾行に行かせる。しかし、その夜のうちにマイルズとサースビーは殺されてしまい、警察は嫌疑をスペイドに向ける。いつかスペイドはマルタ騎士団が作製したと言われる黄金の鷹の争奪に巻き込まれていくのだった…。
わし、ハードボイルドというのは基本、船戸与一さんでしか読んだことがないので、どういう作風なのか、よく知りません。
読んだ感じでは、最初に思ったのは「ミステリ史上の最高傑作」って煽り文句がついていましたが、全然ミステリじゃなかったなぁってことでした。スペイドは私立探偵ですが、ホームズ先生みたいに捜査もしないし、金田一さんみたいに謎解きもあんまりしなかったからです。どちらかというと、黄金の鷹の事件に巻き込まれてはいるものの、積極的に動かず、それでも、最後に当事者が現れた時だけ主導権を握ってたところは主人公らしかったですが、私立探偵という感じではなかったもんで。
しかも、最後、相棒を殺した依頼人のオーショーネシー嬢を警察に突き出しちゃうあたりなんかは冷酷に振る舞ってたし、そこら辺のクールさがハードボイルドなのかと思ってみたり。
Wikiの解説なんか読むと「徹底して心理描写と説明を排した三人称カメラアイの簡潔な文体で構成され、登場人物が今何を考えているのか、どうしてそうするのかが地の文で明かされず、癖のある登場人物ともあいまって、やや読者を突き放した作風」がハードボイルドなんかなぁと。
そういう点でいきますと、「富豪の女にのみ優しい」というフィリップ=マーロウなんかはハードボイルドじゃないと主張した船戸さんの意見は当たってるのかもなぁとか。
スペイドがオーショーネシー嬢を警察に突き出す理由に「私立探偵のくせに相棒を殺されて、その犯人を警察に突き出さないのは云々」とか「女に甘いと思われるのは癪だ」とか理由をあげつらっていたところがいちばんおもしろかったです。元祖ハードボイルドはそう来るのかってところが。
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